蟲 師 
ANIME REVIEW LETTERS
タイトル・サブタイトル・放送日時
蟲師
#02/2005-11-03
<瞼の光>
少女の瞼の裏には蟲がいる。蟲は、少女から光を奪った。 暗闇の中、光の入らない倉の中で、一人で座っている。  時々、その倉の主の子供が、食事を運んでくるだけ。 
「目を閉じると、瞼の裏に闇の光が見える。 ふたつめの瞼を閉じたとき、上の方から本当の闇が降りてくるでしょ?」 ふたつめの瞼を閉じたとき、少女には、闇と光の河が見える。 渡ろうとすると、男がそれを止める。 ある時、少女は、その河を渡ってしまい、少女の目は完全に光を失う。 「ふたつ目の瞼を開けたまま、ひとつ目の瞼を開けるてみろ」男が促す。  その瞬間、幼女の目のあった場所から、大量の蛆が溢れ出す。 その中に蟲が。。。 蟲が取り除かれても、少女には眼球がない。  男が、徐に、自分の左目から、自分の義眼を取り出し、蟲のエネルギーを吹き込み、少女に移す。
少女に光が戻り、男の左目には、何もない。
#03/2005-11-10
<柔らかい角>
舞台は、雪の降りしきる山間の村。(白川郷に似ている) 「両手で耳をふさいでいたら、角が4本生えてきた」 雪が降り、音が無くなると、耳を病む者が出てくる。 その原因は蟲、吽。 見た目は、蝸牛に似ている。 音に飢えた吽は、人間の蝸牛に巣くい、音を食う。 大抵は、塩水で退治できる。 ただし、両耳を病んだ少年マホの症状は、違っていた。  「五月蠅い。静かにしろ・・・」 角が生えた少年には、今まで聞こえていた音が聞こえなくなった代わりに、今まで聞こえなかった音が聞こえている。  阿が少年の耳に巣くっている。 阿に憑かれた患者は、音に埋もれ、精神を病んで死んでしまう。  「耳を塞いでいた。 そしたら、額が盛り上がって、角が、生えてきた。」 マホの母も、同じ病気で死んだ。 死ぬ間際、母は、マホの耳に手を伸ばし、両手で塞いだ。  その行為が、何を意味することなのか、マホは思い出せないでいた。  母は死ぬ直前、音が何も聞こえなくなった。「音が懐かしい・・・」  静かだ・・・ でも、無音じゃない。 雪が積もることにも音はある。 自分の心臓の音もある。 もし、あらゆる音を全て拾おうとすると、特定の音は小さくなる。  それが極限まで高まると、「無音」になる訳か。  ここからの音響演出が凄い。 ステレオからモノラルへ、籠もった音響で、蟲が耳に入っている状況を再現している。  「マホ、聞こえる? これが母さんの音だよ。 消えそうなくらいに不安なとき、この音を聞くの」 その言葉を思い出し、マホは自分の耳を手で塞ぐ。  その時、両耳から溶けだした阿が溢れ、4本の角が落ちた。 
「世界は静かだろう、マホ」とギンコが言う。「すっと聞いていたんだ、母さんと同じ音。 ゾッとするくらい綺麗な音を・・・」
#04/2005-11-17
<枕小路>
予知夢を見る。 最初は10のうち1くらいだった予知夢が、増えてくる。そうなると、夢から戻れなくなる。  夢を見せる蟲と均衡を保ちつつ、共生しなければならない。 「この薬を飲んでください。 無くなった頃にまた来ます。」そう言ってギンコは立ち去った。  1年後、再びその予知無を見る男の元を訪ねると、そこは、廃墟と化していた。 中に入ってみると、男がやつれた姿で座っていた。 「お前が来るのを待っていた。」  男は、なぜこのようになってしまったのかを、ギンコに語り始めた。 「予知夢が現実となると、自分が災いを起こしているようだ。」「自分の見た夢が現実になっている」 ある日、恐ろしい夢を見る。 自分の身近な人間から、死んでいく夢。 それが、やはり現実となる。 そして、村が、廃墟と化した。  それを知ったギンコは、治療の方法を探し始める。 枕、それは、「魂の倉」が語源とも言われている。 人生の3割もの時間が接する場所。 蟲は、枕をとして人間に夢を見せる。 人間が起きている間に蟲は眠る。 
#05/2005-11-24
<旅をする沼>
ここへ来る途中に妙なもの見た。。。 それを捕獲したい。液状の蟲のなれの果て。
青い髪の少女が、こっちを見て佇んでいる。 「この沼、普通の沼じゃないよな。。。」 「この沼は旅をしている。この山を越えようとしているの。」と少女が答える。  「初めて見たときは、あまりに力強くて、神々しかった・・・ この沼は、今は沼の形をしているが、本当は違う。  気づいたときには、この髪の色が緑になっていた。 たぶん、わたしは、一度死んでいる。 でも、沼が生きていて良いって言ったんだと思う。。。」 
「飲み続けると、身体が透明になる・・・」少女がギンコの言葉を思い出し呟く。  「いろいろ教えてくれてありがとう。 わたしは、沼と一緒になる」そう言って、少女は、沼と共に地下に沈んでいった。
「なぜだ・・・ なぜ気づかなかったのか・・・ あれは水子の成れの果てだったのか・・・ おまえ、生きていたかったんだろう」 水子は、地下水脈に沿って移動しているらしい・・・ かつて川だった場所が地下に潜った。 この昔の河口跡に水子はやってくるだろう。 夜、河口跡に張った網に、何かがかかった。 「・・・人がいたぞ・・・ 赤い着物」  ギンコが着物を手に取り「もう・・・手遅れだったのか」
翌朝、漁の網に、娘がかかった。しかし、ゲル状になっていた。 「海へ出て、、、沼が死んでいくのが見えた。 自分が沼に溶けていくことが怖かった。 けど、消えていくことが怖かった」  沼は生まれ、やがて淀み、その懐に築き上げた宇宙の終焉には、自らの足を持ち、動き始める・・・

いや、美しすぎる。 マジ、美しい。
#06/2005-12-01
<露を吸う群>
「今日も日が昇り、また沈む。 朝咲く花が首から落ちる。 今日も日が沈み、また昇る。 辺り一面花が咲く。 けれど、昨日とは別の花。」
ギンコが大潮の日にしか上れない島に向かっている。「話に聞く限りでは、俺の範疇だ。」 その島には、生き神がいるらしい。 しかし、少年の話では、 みんな騙されているだけ。 島は貧しく、生き神を心の支えに、辛うじて生きている。 「あの子だよ・・・」指さす先には、少女が座っている。  そのとき、少女のが急激に老化し、その場に倒れ込む。 そして、朝になると、何もなかったかのように、元に戻る。  「ほう・・・ また病の治った者がおるのか。 暗示で治ってしまうとは・・・」
少女を治してほしいと、ギンコに頼む。 夜になって少女の鼻腔を覗き込むと、蟲がいた。 この蟲に憑かれた人は、まだいるらしい。 島の岬に隔離されている。  「あの子が発病したのは、大潮の日だったな・・・ どこか、大潮の日にしか行けない場所はあるか?」 その場所に行ってみると、蟲に寄生された動物がいた。  その動物を調べて、療法を探る。 その方法を少女に施すと、少女の意識が戻った。 
蟲から解放された少女は「なんだか、不安で溜まらない・・・ とても満たされて気持ちで目を閉じられたのに・・・ 今は、恐ろしいの。 目の前の膨大な時間に足がすくむ。」と言って怯えている。 蟲に憑かれている間、少女は蟲の時間で生きていた。 蟲の寿命は1日。 「いつも、心の中が一杯だった」 
しかし、父親である領主が一向に老化しなくなった娘の異変に気づく。 領主が、ギンコたちの所に向かう。 少女は、ギンコと少年を助けるため、村人に助けを求める。  しかし、真実を知った村人に、領主は殺されてしまう。 「私が、殺したんだ・・・ 父さま・・・」 少女は、父の胸元にあったヒルガオの花を、大きく吸い込んだ。 「ごめん。。。ね。 向こうなら、生きていけるの・・・」 そう言って、少女は再び蟲に憑かれた。 心底、満たされた表情を見せるのは、生き神でいるときだけだから。。。 少年が、少女の姿をみて思う。
「おそらく何人かは、治療をありがたくは思っていない・・・」治療を終えたギンコが呟く。 「一体、なにを糧に生きていけばいいのか、分からない。」
#07/2005-12-08
<雨がくる虹がたつ>
雨。木陰で雨宿りをするギンコ。 一緒にいる男は商人風だが、違うようだ。 男は、虹を持ち帰るために旅をしているという。  男が子供の頃、自分の父親が雨が降ると、虹が立つといって、家を飛び出し2・3日は戻ってこない、 そんなことを繰り返していた。 ある日、父に聞いてみた。 雨の中走るのが楽しいのか?と。  「あの日はなぁ・・・」と父が話を始めた。 その日、大雨のあと、虹が出た。 どんどん近づくことが出来て手に取ることが出来た。 その後、雨が降ると、身近な所に虹が出るようなったが、それを見ることが出来たのが、父と赤ん坊であった自分だけだったらしい。 しかし、突然、虹が出なくなった。 それ以来、水を飲み続けないと居ても立っても居られない。 「どこにいるのか、、、いつか探しに行ってみたい・・・」 そして、父は衰弱していった。「あぁ、、、虹が見たいなぁ」 で、その虹を見せるために、こうして旅をしているという。
雨が上がり「おい。 虹を探すには、あっちに行った方がよい。 それは、蟲の仕業だ。」とギンコが言う。 そうして、男と一緒に旅することになった。 虹蛇という蟲。 色の並びが逆。 雨が降り出し、歩いていると、虹が出た。「アレは、ただの虹だ。 探すとなると、見つからないものだな。」  男は、もう5年も旅を続けている。 「虹を見るたび、追わずに入られなかった・・・ けど、村を抜け出しても、俺は負け犬だ。」
「・・・雨がくる・・・ 虹がたつ」 太陽の方角に、虹が出ていた。 慌てて走り出す男。 しかし、その場所に着いた頃には、蟲は消えていた。  朝になると、雨が降り出していた。 「あ。出た。」 男が虹を追う。 「すげぇ・・・ うつくしい」 といって、手を伸ばす男。 触れた瞬間、虹に引きずり込まれそうなった。 「おそらく、虹蛇は、取り憑く蟲だ。」 虹を見上げる男が、「そっか結局手の届かない存在か・・・ いっそ、すがすがしい感じだ。」 そう言って、男とギンコは別れた。 
#08/2005-12-15
<海境より>
<浜には何かと物珍しいものが流れ着く。 稀に人。 若しくは人を乗せぬ空舟・・・>
ギンコが浜を歩いていると、一人の男が海を見つめて座っていた。 男は、沖で別れた嫁を待っていると言う。  2年半前、嫁と一緒に田舎へ戻ってきた男。 男と嫁は、舟で丘を目指した。 しかし、急に靄が出てきた、  海には蛇のようなものが蠢いている。 嫁の乗った舟は、潮に流され、男の乗った舟から、遠ざかっていった。  そのとき、大波が舟を襲った。 男は、浜に流れ着いたが、嫁は、流れ着くことはなかった。 「沖へ流れ出たら、生きていることは無いだろうが、どうにも証が・・・」  一通り話を聞いたギンコは、「まぁ。達者でやってくれ」と言い残して、その場を去った。 「蛇・・・ どっかで聞いたことがあるような・・・」 
その後、男は、少しずつ、村に馴染んでいった。 ある日、男が海を見下ろすと、鱶のような影を見た。  「妙に潮が高い・・・」漁師達も何か異変に気づき始めた。 再び、ギンコが村を訪れる。 浜には、もう、男は居なかった。  村人に聞いてみると「もう、この村で生きています。」という事だ。 
また靄が出だした。 3年前にも同じようなことがあった。 こういう靄の時に沖に出ると、戻ってこれなくなる。 3年くらい経つと、空の舟だけが戻ってくる。  「海千山千」。 そういう蟲に仕業。 「なんで、お前さんの嫁さんだけが、靄に飲まれたのか、考えたことがあるだろ? 覚悟は出来てるな?」  ギンコと男が舟で沖に出る。 沖からは、靄の中でも、丘がよく見えている。 「まだ、丘は見えているよな?」とギンコが男に確認する。  そのとき、蛇が現れ、あの時の舟が現れた。 舟には、遺体が。 衣を捲り、遺体を確認しようとすると、生きていた。  「あんた・・・ もう、諦めかけてた。 もう、3日は経ったでしょ?」と嫁が男に縋り付く。 「すまなかった・・・俺・・・」  嫁の手を取る男。 「待て。お前、ちゃんと丘は見えているか?」と聞くギンコ。 男の指さした方角は、沖の方向。 「もう、潮時だ。 それは、蟲が変態した幻だ・・・」  たった2・3時間のはずだったが、丘では1ヶ月の時間が経っていた。。。 靄の中では、蟲の時間が流れていた。 翌日、男の嫁の骨と遺品が浜に流れ着いた。  その上等な着物に喜ぶ村人。 これで良いのか?と尋ねるギンコに「もう、持ち主はいない。」と答える。 そして「あぁ。 綺麗だな。」と声をかける男。 
#09/2005-12-22
<重い実>
「なんだろこれ・・・ これ、歯かしら・・・」と言って、女が皿に映った自分の口を見て言う。
<父母の躯に根を張りし苗よ 青い青い葉を生やせ 重い重い実を付けよ>
ギンコがある村を訪れると、今年は不作だという。 そのときに山の向こうの豊作の村の噂を聞く。  その村で、酷い天災な時にも豊作の理由を聞くと、秋になると瑞歯が生える者が出てくる。 秋が終わると歯は抜け落ち、 体が弱り、やがて死んでしまう。 その遺体は、土葬にする。 歯は、祭主が保管する。 その歯は、後に祭主にしかみえなくなる。  「その祭主に会わせてもらえないか?」と頼むギンコ。 祭主とこの不思議な豊作と瑞歯について尋ねる。 しかし、相手にしてくれない。  成らずの実については、反応があった。 「あんたにも分かるだろ。 あんたも蟲がみえるのだから。。。」 話を進めるギンコ。  成らずの実も、そういう命を生む蟲の一種。 「あんたならどうする?  そういう命を生む蟲がいたら?」「・・・使うだろうな・・・ でも、一人の命で二人救えるなら、使わない」  この土には先祖の躯が眠っている。 
<そう、そんな実は、一人の人間の手には余る。実りすぎた稲穂が重い頭を垂れるように、手からこぼれ落ちて土に横たわる>
ギンコはこの村を救うことにした。 その手段は、田を焼き払うという事だ。 その話を聞いた祭主は、ショックから倒れ込む。  しかし、祭主は薬(毒)を飲んでいたことが分かった。 その後、祭主は、自分自身が最後の瑞歯の犠牲者となると、話を始めた。  つまり、病弱になって瑞歯が生えてくることを願っていた。 「いいのか、あんたはそれで・・・」ギンコが尋ねる。  祭主には迷いはないようだった。 村人は、まだ祭主の瑞歯が生えたために出来た豊作になっていることに気づいていない。  そして、祭主から歯が抜け落ち、死んだ。  ギンコは祭主が死ぬ前に、もう一つ尋ねていた。 実を食べると、動物にももう一度命を与えることが出来るかもしれない。 しかし、その存在は植物でもない動物でもないものになる。 その覚悟があるか? それに祭主は、出来ることならこの村の行く末を見届けたい、 自分のしたことが正しかったのか、この目で確かめたい・・・ と。
朝になると、祭主が目を覚ました。 その里に於いて、その土地の豊作は語り草になったと同時に、奇妙な伝説も生まれた。 長く続いた別れ作が終わったその年に出来た米は、一人の男を不老不死にしたという。
#10/2006-01-12
<硯に住む白>
夏の日の倉の中、珍しいものが並んでいる。 その中に、硯があった。「綺麗・・・」と手に取る少女。  夜になって、寒いと言い出した。 医者が駆けつけると、体温は低く、少女は、「ごめんなさい、先生の倉の硯を触ったの・・・」と謝った。  その硯をギンコに見せる。 先生曰く、蟲の死骸で出来た硯だそうだ。 しかし、ギンコには、死骸には見えない。 「生きているようだ」  昼間、子供達は、その硯で墨を磨ってみることにした。 墨を磨ってみると、それが吸い込まれたように見えた。  以前の持ち主は、その硯を使用することで、死んでしまっているらしい。 その硯を借り、ギンコは去っていった。
ギンコは、硯職人(たがね)探しだし、「今、この硯のせいで、苦しんでいる子がいる。」それを聞いて、「良く来てくれた。。。 探していたんだ、この硯を」  たがねも、硯を使った人が3人死んでいることを知っていた。 昔、納得できる硯が作れずにいたが、 やっと見つけた最高の石で硯を彫った。  その硯で墨を磨ってみると、何か白い煙のようなものが立った。 しかし、自分以外には見えないらしい。 その硯を持って、婚約者の所へ持っていった。  しかし、次の手紙には、婚約者が新だという話だった。 その硯は、古物商を介して、転々と渡り歩いた。 その先々で死人が出たという噂を聞いていた。  一通り話を聞いたギンコは、だいたいの検討が付いたと、立ち上がると、「その硯を買い取らせてほしい」とたがねが言う。「でも、これは、俺んじゃないしな・・・ なんなら、あんたも一緒に来ると良い」とギンコ。 
職人を連れて、先生もとに戻ってきた。 炭と焜炉と鍋を準備して、患者を高い山の上へ連れて行く。  湯を飲ませつつ、山を登る。 少女の口、耳から、煙のようなものが出始めた。 「みんな、息を止めろ!」とギンコが叫ぶ。 煙が出切ると、体温が戻り、顔色も良くなっていた。  その蟲は、雲と同じ。 雲の出来る高度まで登ると、それが現れる。 
その硯の処理について、先生と職人で、意見が合わない。 「その硯を壊すってことは、蟲を殺すうえ、その美しい硯を壊してしまうのは・・・」と言い張る。  しかし、責任を感じている職人は、蟲を自由させることにした。 浜辺で、墨を磨る。 白い煙が立ち上る。 すると、雹が降ってきた。  「・・・しかし、いつ止むんだ?」  なんなら、硯を一つ注文しても良い。蟲入りでも構わないから。
#11/2006-01-19
<やまねむる>
山に穴が空いていた・・・ 次の瞬間、それが消えた。
村人たちが、山の事で話し合っている。 それを知ったギンコが、自分が手伝えるかもしれないと申し出る。  村の長が、ギンコにある蟲師ムジカを探してほしいとお願いする。 この時期は、村人は山には入っては行けないと言う掟がある。  だから、ギンコに山には入ってもらい、その蟲師を探してほしいとの事。  山に入ってみると、子供が倒れていた。 その子曰く、ムジカの弟子だという。  ギンコは、蟲を利用して、山の中を探索し、「いくぞ! こっちだ」と、弟子を導く。  すると、鐘の音が聞こえた。 谷の奥に、ムジカが足を挫いて、動けなくなっていた。  「この山は、自分の庭だと思っていたが・・・ あんなところで、足を挫くとは・・・」 しかし、それが原因で山に異常が起きているわけだ。  ムジカはかつて、旅蟲師をしていたが、この村の惨状を見て、とどまり、そこで助言をするため蟲師をする事を決めたという。  この山から流れ出る河の水のおかげで、たくさんの子を授かるが、育てきれずに、山へ捨てていく。。。 たったひとり、獣に食われず、生き残れたのが、 ムジカの弟子だけであった。  「良かれ悪しかれ、俺が骨を埋めるのは、この山しか、無いからな・・・ じゃ、おまえさんも達者でな・・・」とギンコに別れを告げる。  村に戻ったギンコ。 早朝、気配を感じて、目が覚める。 鐘の音が聞こえる・・・ ムジカの弟子も異変に気づいて、ギンコの元に駆け寄ってきた。  「鐘の音の蟲は、たした蟲じゃない。 家に帰って、寝直せ」と言って、ギンコは、歩き出した。  「山が静まりかえっている・・・ アレがそこまでやってきている」ギンコが森に分け入る。 その時、視線の向こうに、ムジカが見えた。 「あんた、足なんてケガしていないな・・・」 鐘の音は、クチナワの鳴き声だった。 蟲食いの蟲。 「もうおそい。 無駄だ。」ムジカにはクチナシが迫ってきている。 それを悟ったギンコは、ムジカからモグラを引き離そうとする。 「やめろ! お前まで、巻き添えを食うぞ!!」  ギンコは強行する。 <決して、自分の記憶にない夢を見た・・・> 山頂に倒れたギンコが弟子に見つけられる。 ムジカは、どこにも居なかった。  そして、村人はムジカのことを覚えている人は居なかった。  <ほかにいい方法は無いのか?!><..無いねぇ・・・残念ながら・・・> そう思い返し、山を見上げると、大きな白い蛇が蜷局を巻いて、こっちを見ている。
#12/2006-01-26
<眇の魚>
<おい・・・ 小僧。 生きているのか?>
天井の梁に蟲がいる。 「お前、蟲が見えるのか? 怯えることはない。 それとも、私の方が恐ろしいか・・・」振り向いた少女の長く伸びた前髪の隙間から覗く右目は、潰れていた。  「早く治して出てっておくれ・・・」そういって、少年に薬を渡す。  夜、天井を見つける少年。 昔、蟲を見た記憶を思い出していた。 母と一緒にいたが、豪雨と土砂崩れで、母を亡くしてしまった。 そのことを思い出し、涙が溢れる、少年。  ふと、起きあがり、障子に漏れる光を感じる。 「だいぶ、動かせるようになった・・・」 近くの池に行ってみると、真っ白で目が緑の魚が泳いでいた。 「どれも、片目がない。」 すると少女が「あれは、池に住む蟲のせいだ。」 「あの・・・あれらは、幻じゃないんだよね?」「在り方は違うが、断絶された存在ではない。 我々の命の別の形だ」 
「お前、そろそろ、足はいいんじゃないのか? 変える家があるんじゃないのか?」 「変える家なんてない。」と寂しく答える。  池に住む蟲は闇だという。 闇には二つある。 日や灯りを遮ったときに出来る闇 と 床の闇。 池が、銀色に輝くことがある。  それをずっと見ていると、片目が無くなる。 でも、両目は無くならない。 「闇を作るのは、常闇。 光を放つ蟲に名があるかは知らないが、私は銀子と呼んでいる・・・」
翌日から、少女と少年の不思議な生活が始まる。  「夜、独り山を歩いていると、月が消えたり星が消えたりすることがある。 そのうち、自分のことも分からなくなることがある。 それは、床闇が迫ってきているからだ。」
少女は、蟲を寄せ付ける体質のため、一所にとどまることが出来ず、蟲師として、各地を渡り歩いていたが、 折を見て故郷に戻っては来ていた。 しかし、ある時、家族や村人が消えてしまっていた。 その原因が、常闇であることに気づく。  彼らを助けるために、ここへ6年も止まっているという。
その朝方。少年はひとり家を抜け出し、池へ向かう。 すると、空から、黒い物体が降りてきて、池に落ちた。  そして、辺りが銀色に輝く。 その瞬間、片目しかない魚が消えるのを見た。  「消えるのではない。 銀子の放つ光が、魚を常闇に返すのだ。 恐れや怒りに、目を眩まされるな。  みな、それぞれ在るように在る物だ・・・ 全てはここに在ると気づいた。。。 お前がいると、辛いばかりだ。 頼むから、もう行ってくれ。 愛する故郷がないことは、きっとお前には幸運だ。」 「いやだ」 「ここは、私と常闇の場所。 お前のいて良い場所ではない。。。」 少年を突き放し、「これでも良いよな・・・」そういって、池に向かう。 常闇が少女を覆う。 それに気づいた少年が、少女の手を握ると、黒い波が全身に入ってきた。  「なんて事を・・・ 戻るんだ。」少女の手に温度がないことに気づく。 「お前の手は、暖かいよ。。。 片目は閉じてお行き。 片目は銀子にくれてやれ。 常闇から抜け出すために・・・ もう一つは、堅く閉じろ。 もう一度、日の光を見るために・・・」 次の瞬間、銀子が現れる。 「あれが、銀子・・・ 常闇の底・・・」
「土の臭いがする。 また、月・・・ これで、何回目だっけ? また、分からなくなった。 こういうとき、どうすれば良かったんだっけ・・・」 <その翌日、右目は、日の光を見ていた・・・> 倒れた所を村人に助けられる。  「名前以外、何か思いだしたか?」と少年に尋ねる村人。「なんなら、ずっと、ここにいても良いぞ。」
<ただ、左目の闇は、日の光の下でも暗く、そして、奇妙なモノを寄せ付けた。 きっと、あれらは災いをもたらす・・・>
「おーい、ギンコ、飯にするぞ。」少年はどこにも居ない。 「あれ、どこいっちまった?」
#13/2006-02-02
<一夜橋>
<大丈夫か?華・・・ 直、橋だ。>
「いい感じの橋だなぁ。 渡るしかねーか・・・」とギンコが橋を渡り始めると、蔦が切れた。 「これ、もうきてるんじゃねーか? あー、焦った」 そこへ村人が来た。 文句を言うと、直しておくと言う。 「いつまでいるんだ?」という問いにギンコが「さぁ、俺にもわからん」と言って、手紙を差し出した。  その差し出し主を見て、村人が驚く。 
「娘の華です・・・」3年前に橋から谷に落ちて以来、日向でボーっとしているらしい。 医者も理由は分からずじまい。 家の外には、さっき会った村人がいた。  「なんだ、知り合いなのか?」華があのような姿になってしまったのは、自分のせいだと言った。 そして、なぜそうなったかについて話し始めた。  <華に本意ではない縁談がせまり、辛さのあまり、男と村を抜ける事にする。 しかし、橋の所に来たところで、華が急に足を止め、向こうに行ってもずっと想ってる と言い始めた。  手を取ろうと近づいたとき、華が後ずさりした。 その瞬間、橋が抜け、華が谷に落ちた。 とうてい助からない高さから落ちたにもかかわらず、自分の足で戻ってきた。 しかし、精神は蛻の殻になっていた> 谷に一夜橋がかかる夜に死んでしまう・・・ 谷に、一夜限りの橋がかかることがある。 谷に着いたギンコは、そこに蟲の気配を感じる。 ニセカヅラだ。  「どう? 何か分かった?」「谷戻りも、一夜橋も、言い伝えじゃない。 どちらも、ニセカヅラで説明が付く。 生物に寄生し、より望ましい場所へ移動する。 ニセカヅラは死体に寄生している。 抜け出るとそれは、死体になる」 その話を聞いて、村人は愕然とする。 そして、前に一夜橋がかかってから20年目の年が、今年に当たることに気づく。 「なんとか、延ばせないか?」とギンコに懇願するが、もう為す術がない。
翌日、ギンコは華の母に、全てを話す。 「彼女は、すでに彼女ではないが、、、物のようには扱えない・・・」そう言って、ギンコは華の元を離れた。  その夜は、村人の隠れ家にて、夜を明かす。 夜、激しい音とともに、吊り橋が落ちた。 「くそ・・・ なんてこった・・・」途方に暮れるギンコ。  村人の所に華がやってきた。 「温かい。。。 お前、まだちゃんと生きていてくれるんだよな。。。」 その様子を母に見つかる。 しかし、華の首筋から蟲が抜け出した後、華は息を引き取った。  「華が死んだ・・・」「そっか。 お前もここを出ていくか? おそらく、今夜、一夜橋がかかる。 夜半までには決めることだ。」
夜、ニセカヅラが集まり、一夜橋をかけた。 橋の袂に、ギンコと村人が立つ。 「おの橋、戻れば落ちるぞ・・・ 未練はないな」と確認するギンコ。  「あ・・・ そうだ。 忘れよう。 きっと、忘れられる・・・」そう自分を言い聞かせていた村人だったが、突然、足が止まる。 異変に気づいたギンコが、 「どうした? もう、戻れないぞ!」「この中に、華だったヤツがいる・・・」「違う!」「違わない。踏みつけてなんざ。進めない。。。」ふと、足を戻した瞬間、村人は谷に落ちた。 
<その後、彼がどうなったかは、正しくは知れない・・・ だが、おそらく・・・> 村人にも、蟲が巣くい、村に戻ることだろう。 <あの谷に、また、一夜橋がかかるのは、20年の後・・・>
蟲師
#14/2006-02-09
<籠の中>
雨の降る竹林。 「もし・・・ 旅の方・・・ 山を下りるのですか? どうしても竹林から出られない。 もう3年も人の通りがなかった」と男が言う。 「...3年」 
方向が分からなくなる理由が男にも分からなかった。 一緒に歩いてしばらく、同じ所に行き着いた。 「自分の意志で、進めなくなる・・・ ここでオイラといっしょに暮らすかい?」焦るギンコ。  そこに、男の嫁・セツが来た。 少し休んでいくか、という誘いに、別の方法を考えてみると言って、その場を去るギンコ。 「それじゃ、元気でな。」「・・・元気でな? どうも妙だな・・・」  しばらく歩くと、竹林から出られた。 村で休んでいると、村人が怪訝そうな顔でギンコを見ている。 「あんた、あの竹林から出てきなすったのか? あそこで男を見なかったかい?」 村人の話では、白い色の竹に化け物が巣くっているという噂だ。  再び竹林に戻るギンコ。 「あれ? 出られなかったのか?」と竹林で会った男に見つかる。  白い竹の話をするギンコに、その場所を案内する男。 「ふーん。 これは間借り竹だな。 まずは、この竹林で起こったことの全てを聞かせてもらおうか」とギンコ。  <昔、竹林には人が住んでいたが、子供が出来なかった。 しかし、ある時、子供が出来たといって夫に、筍を抱いた姿を見せる。 夫は逃げていったが、その後、セツという名前の少女が竹林で見かけるようになった。 決して、竹林から出ることはなかった。> 皆で一緒に遊ぶこともあったが、ある時、竹林から出られないことに気づく。 歩き回っているうちに、自分が一人、竹林から出られない事に気づく。 そして、少女と一緒に暮らすようになった。 最初の頃は、里の者のが差し入れなどしてくれたが、それも無くなり、ある日、子供が出来た。 子供は、竹の皮に包まれ産み落とされた。 
「間借り竹とは、草木ではない。 竹林の根に寄生する蟲。 あんたの女房は、人と蟲の間の子。 俺ら蟲師は鬼子と呼ぶ。」 それを聞いても男は動揺することなく、「夢は、女房と里に下りて一緒に暮らすことだ」と言う。 「ひとつ、試したいことがある・・・」
ギンコは竹林を歩き回り、進路を変えてしまうポイントを押さえていくと、真円になることに気づく。 ギンコは男の嫁が持っている竹筒に入った水を少々もらって、試してみるが、やっぱり出られなかった。 「これは、厄介だ。」とギンコ。  しかし、原因が分かった。 「蟲は意志を持っている。 その意志の命令を伝えるのが、このセツの持っている水。 この水を飲んだり、近づいたりしたらその作用が効く。 水を身体から抜けばいいだけのことだが、他にどんな影響があるのかわからない。」そう聞いて、あきらめる男。 
その話を聞いてしまったセツが、夜、間借り竹の根本に斧を振り下ろす。 しかし、切り倒すことが出来ない。 セツは、その間借り竹の子。 間借り竹の意志に反することは出来ない。 後悔の念に泣き崩れるセツ。 そして、もう一度、斧を振り下ろすと、 竹が倒れる。 そして、暗闇の中に竹が消えた。 セツを探し回る男。 すると、里が見えた。 家に戻る男。 しかし、帰ってこないで と言われてしまった。 「戻ろうか・・・」
それからしばらくは、3人は幸せに暮らしていた。 しかし、半年後、間借り竹が全て消えた。 間借り竹あってのセツと子供。 親である間借り竹を失った身体は、死ぬ頃には枯れ木のように痩せ細っていた。  そのことをギンコに伝える男。 しかし、竹林の奥。 二人の墓のそばから、泣き声が聞こえる。 墓石の隣から、二つの筍が生えていた。

蟲師
#15/2006-02-16
<春と嘯く>
<誰もが息を潜める頃に、芽吹くは、春の紛い物。春と浮かれて長居をすれば、何時しかその身は凍り付く。>
「あれ・・・ 花が咲いている・・・ 蝶だ!」雪降る少年の目の前には、花の咲く野が広がっていた。 
夜、ギンコが宿を頼みに、民家の戸を叩く。 朝になると、木の上にいる蟲に触ろうとしてるミハルを見つけたギンコが「止めろ!」と叫ぶ。  「この子の見える物、あなたにも見えるの?」と少年の姉が聞く。 「俺達はそれを、蟲と呼んでいる。」と説明を始めた。 
ミハルが蟲を見始めたのは、3年前の事。 3年前の吹雪の日に、ミハルの姿が消えた。 もう生きている望みはないと諦めていたが、春になったら、居なくなったときの格好そのままで、ひょっこり帰ってきた。  そして、冬の食料が底を尽き始めることになると、再び雪の中に消えるようになった。 そして、晩には里のはずれに倒れていて、春になるまで懇々と眠る。 懐には、春の山菜が握りしめられていた。  「それは、春紛い っていう蟲かもしれないな・・・」と一通り話を聞いたギンコが言う。  「木に咲く<嘯き>という名前の蟲がいる。 それが生き物を誘き寄せ、精気を吸い取り、春まで眠らせてしまう。。。 危険な蟲は教えてやれるが、アイツの場合はちょっと厄介だな」
と言うわけで、ミハルに蟲の指南を始めたギンコ。 だが、意外と手こずる。 ミハルに山菜のある場所を聞き出そうとするが、なかなか教えてくれない。  夜、書物で蟲の勉強。 「ギンコさん、いつまで居られるの?」と鈴が聞く。 「コイツがこの辺にいる蟲を覚えられるまで、、、 あと10日くらいか・・・土地にも依るが・・・ 長く居すぎると、蟲が寄りすぎてくる」 「出来るだけ長居すると良い。 冬の旅は辛いから。 春まででも・・・」 「それは、山次第だな。」
深夜、天井の梁に蛹の様な蟲が見えた。 「そろそろ寄り始めたのか? やはり、以前に比べて多くなってきた。 ・・・長居しすぎたか」
ミハルを探すギンコ。 しかし、姿が見あたらない。 探し回るが、行方知れず。 結局、夜になってしまった。 暗闇の向こうに雪の上に倒れ込んでいるミハルを見つける。  手に握られていた巾着を開けると、たくさんの山菜が入っていた。 その中から、蝶のような蟲が飛び立った。「春紛い?」
「なぁ。鈴。 そう、思い詰めるな。 春になれば目覚めるよ。 春まで、一緒に居てやりたいが、もう行かなければならない。」とギンコが告げる。 その言葉に、驚く鈴。 「ミハルが起きたら、寂しがる・・・」  翌朝、ギンコが旅立った。 「また、顔を見に来る」と言い残して・・・
<誰もが目覚める頃、紛いは眠りにつく。 そして、また、冬山で一人、春と嘯く>
翌冬、ギンコが再びミハルのもとを訪れる。 ギンコの顔を見たとたん鈴が涙を流す。 ミハルはあれ以来ずっと眠ったままだった。  「これは、ミハルの行った場所に行ってみる必要があるな・・・ 戻らなかったら、山の北側辺りを探してくれ。」そう言い残して、ギンコが雪山に消えていった。  1年前のミハルの足跡を思い出しながら、雪道を進む。 「くそ・・・ 一体どこに・・・」 その時、目の前をミハルの袋で見た蝶が飛んでいた。 そして甘い匂い。  その先には、春の野原の様な光景が広がっていた。 「目が眩む。 嘯きは花の形だったな・・・」と足早に嘯きを探す。 「・・・どんどん体温が下がっていく 臭いも変わっている。」 急激に身体が冷え始めた。 「手が、、、動かねぇ なんで、あの蝶だけが。。。 コイツ、くそ  分かったって言うのに、眠くてしょうがねぇ」と言って、その場に倒れ込むギンコ。  夜、ギンコは鈴に見つけられ、家に連れて帰ってくるが、眠ったままだ。 「馬鹿。 私、どうしたらいいの? どうすれば起きるの?」と蹲る鈴。  ギンコの上着の懐に、小さな竹筒を見つける。 開けてみると、蝶が入っていた。 「何か・・・ 出たような気がするけど・・・」鈴には、その蝶が見えない。 飛び立った蝶は、天井の梁に消えた。
「・・・そうか、もう春か・・・」 春になって、ギンコが目を覚ます。 視線の先の梁には、蝶がとまっていた。 そしてミハルも目を覚ました。 抱きつく鈴。 
その後、天井の花のような物は、数日の間、強い芳香を放った後、見覚えのある姿に変わった。 「お前は、嘯きの孵化を春紛いの合図にしてたのか・・・」「ギンコがあの時蝶を逃がさなかったら、春になれば起きれたのに・・・ 冬に山菜をくれるし、綺麗だし・・・ でも、アイツらも生きているだけなんだよな。」  「ふーん。 分かってきてるじゃないか。 だが、決して友人じゃない。 ただの奇妙な隣人だ。 気を許すもんじゃない。 でも、好きでいるのは自由だがな。」
家に寄らずに去るというギンコに、「ねぇちゃんが寂しがる」とミハルが言う。 「世話になったと伝えてくれ。」そう言って、村を離れる。  「ねぇ、また来るよね?」「さぁなぁ・・・ 冬じゃないときに。 冬は、人間も弱るからな。」と答えたギンコに首を傾げるミハル。 
<凍て山に芽吹く幻の春、雪路に灯る家の灯り、それらは逃れがたく長居を誘う。獣も蟲も人も同様・・・>

蟲師
#16/2006-02-23
<暁の蛇>
春。 うたた寝をするさよに蛇の影が近づく。 それは、首筋を上がり、耳から躰に入っていった・・・
「春眠、何たらを覚えずって奴かねぇ・・・ 長閑だねぇ」 と舟の上で地元の男と話をしている。 舟から下りようとすると、同乗していた少年が、ギンコを止めた。 ちょっと話があると・・・
家に案内するギンコ。 家には、少年の母・さよ が いたが、少年カジ曰く、物忘れが激しくなってきていることを説明する。 「物忘れというより、進行性の記憶喪失のようだ。」 夕飯に呼ばれるギンコ。  カジはさっさと食事を済ませて、出ていってしまった。 さよとギンコの2人が残される。 さよも自分の異変には気づいていたようだ。 「私、このままだと、夫やあの子の事も忘れてしまう。 そして、忘れたことすら忘れてしまう・・・」 
カジに母の記憶を書き出してもらって、何かしらの規則性を見いだそうとするが、なかなか糸口がつかめない。 夜になっても、さよは眠りにつけない。  機を織りながら、夫の事を思い出し忘れないようにしていると言う。 「・・・そうか。 暖かな風 花の臭い 機を織る音・・・ こんな宵が常ならば、深い深い眠りの淵に落ちるためにあるだろうに。」  さよを一晩、監視し続けていたが、うとうとし始めたかと思うと、すぐに起きてしまう。 結局朝になった。 朝食の支度をいするため、さよは機織りの前を去ると、そこの壁に、眠りについている影が残った。  その影が動きだし、蛇の形に変わって、日の光に消えていった。 「あれは、やはり・・・」
「記憶を食う蟲?」「あぁ。 影玉という名だ。 古い巨木に同化する。 その木の下で眠ると、耳から脳に入り込み、宿主の記憶を食う。 ある程度、巣くうと分身を作る。 影玉の弱点は日の光だけだ。 頭の中に当てることは出来ない。  しかし、大切な事は忘れずにすむかも知れない。 ひとつだけ、影玉に冒されない記憶がある。 それは、日常の記憶だ。 あくまで、推測だが・・・ もし、記憶が底を突いたら、それらも消えるかも知れない。」 外に出て、記憶の刺激を追加していけば、大切な記憶は消えないかも知れないというギンコの言葉に、夫を捜しに出てみたいという母。 「一緒に来てくれるわよね。 カジ。。。」
その決断が、ふたりにとって良かったのかどうか・・・ その経緯を知ったのは1年後のこと。。。 1年後、カジに再会するギンコ。 夫は、西の町に住んでいたが、別の家族と所帯を持っていた。  それを知ってしまったさよは、カジの手を引いて、その場から立ち去る。 その後は、食事も睡眠もとらず、歩き続けた。 そして、ついに倒れてしまい、何日も眠った。  数日後、目が覚めたカジは、壁伝いに何かを感じた。 「今、何かが出ていった・・・」 すると、母が起き出してきた。 「私たち、なんでこんな所にいるの?」 さよは、夫を捜しに来ていたことを忘れてしまった。  そして、カジ意外のことの大半を、忘れてしまっていた。 だが、カジの事や食事を作ることは忘れないらしい。 今でも、夜は眠らず、機を織っている。 夕食、また1膳多い。  「なんでだろう・・・ でも、こうすると、なぜか安心するのよね・・・ 何でだったかしら。。。」

蟲師
#17/2006-03-02
<虚繭取り>
<現世(うつしよ)には数多の空洞(ほら)が空いている   煙の如く消えし者らは 空洞を彷徨い続けるのだという    記憶を失くし   心を喪くし>
糸を紡ぐ少女、イトのアヤ。 本家の人がら、山で虚守をしている爺様のことについて話を聞かされる。 10歳になったら、どちらか一人もらいに来るという約束だった。 「どちらかに、行ってもらわなければ・・・ 妹のアヤはどちらかね?」  それを聞いて、姉のイトが、私が行くと言い出した。 「イトちゃんが行くなら、私も行く」とアヤも言う。 深い山の奥、一人では寂しいだろうが、2人いればやっていけるだろう・・・ なぁに、二度と会えないわけではない。 俯く、両親。 
手をつなぎ、山を行く少女。 「戸は、少しだけ開けておけ。 良く来てくれた 早く座れ。 一度に2人も来てくれるとは・・・」 「ずっと、ここに独りで住んでたの?」 「そうだ、楽しみと言えば、たまに来る蟲師くらいなものだ」
「お前達、玉繭は知っているな?」と2人に尋ねる。 屋根裏には、たくさんの繭が吊されている。 玉繭は2本の糸で出来ている。 それを解いて、二つの繭に作り替える。 そうすると、中にいる虚さんは、その二つの繭の間しか行き来出来なくなる。  それを使えば、遠くにいる蟲師などに手紙を送ることが出来る。 「虚さんを軽く見てはならんぞ。 現世に風穴を開ける恐ろしい蟲だ。 密室を見つけては、そこに閉じ籠もる。 だから、戸は決して閉めちゃダメだ。」と爺様が念を押す。 「謝って戸を閉めてしまったら、開けてはならない。 もし、その中に虚さんがいたら、虚穴に閉じこめられてしまう・・・ ずっと虚穴をさまよい歩くことになる  閉じてはならぬ 開けてはならぬ・・・」
翌日、洗濯を終えて片付けをするアヤ。 縁側でイトが昼寝をしている。 風で布が飛び、イトの上に覆い被さった。 目が覚めると、虚さんがいた。 近づくアヤが布を上げようとすると「開けちゃダメ」とイトが言う。 そして、布だけが風に舞った。 そこにはイトの姿は無かった。
夕刻、「私が、布をめくったから・・・ 布をちゃんと止めてなかったから・・・ イトちゃんどこに行ったの・・・」 「手立ては無いんだよ。 アヤ・・・」 「私、絶対、イトちゃんとこと、連れ戻す。。。」
そして、5年が過ぎ、ギンコが訪れた。 「ならば、虚穴に入ってみるか? 一緒に行ってやる。 虚穴がどんなものか確かめてみろ。」とギンコが言う。  ギンコが指さす気に、虚の沸いた鉱脈筋の木がある。 中に入ると、そこが虚穴。 「直、大虚に出る。。。」 道沿いに鎖が強いてある。 昔の蟲師が引いた物だという。  しばらく行くと、アヤの足が止まる。 「この穴のうち、外に繋がっているのは、ひとつだけ、、、 それ以外は、虚穴。 二度と開けることは出来ない。 お前のお姉さんはこのうちのひとつを通った可能性はある・・・ だが、どうしようもない。 お前の中の、でっかい虚の口を塞げ。 戻って来れなくなる」 その現実に、涙が流れるアヤ。
<とある養蚕の村に、奇妙な記録が残るのはそれから数年後の事になる・・・ 人の子、繭より出でり 齢十ほどにして言葉を得ず 後、懐の文を頼りに、故郷に戻りし・・・と>

蟲師
#18/2006-03-09
<山抱く衣>
一昔前の天才絵師の絵だ。 よく見ると、絵から煙のようなものが見えることがある。。。
「山の神さまが飯炊きをしているのよ」と山の煙を指さす少年に母が答える。 畑仕事をする男。 「あのころ、山には不思議な生き物がいた。。。」男が昔のことを思い出す。  男が若い頃、絵師に弟子入りする時に姉からもらった羽織。 「早く、絵が描きたい・・・ ねんちゃんたちどうしてるかな」 日々、師匠の世話が続く。  師匠の残った絵の具で、羽織の裏にひっそりと絵を描く男。 「お前の羽織か? おの作画、誰のものだ?」と干してあった羽織を師匠が偶然覗いてしまう。 あわてて、どうしても描きたかったと頭を下げる男。  それを聞いた師匠は、「明日から画室に上がれ。。。 ワシが教えることは、そうはないだろうがな・・・」
男は絵を描き始める。 しかし、絵を描き終えるには絵の具が足らない。 羽織を質に入れて、絵を仕上げた。 その完成度を見た依頼主は、大いに満足し、もう一折、屏風を注文した。  それ以降、男のもとには、注文が殺到した。 ある日、店で酒を飲んでいると、遠い村での地滑りの話を耳に挟む。 しかし、そんなことを気にしている暇はない。 絵を仕上げることの方が先決だった。  注文を納めにいくと、依頼主が変なことを言う。「先生、お体の具合が良くないので? 以前見せてもらった絵は生命漲るものでしたのに。。。 いえ、私の取り越し苦労だと思いますが。。。」
「くそ・・・なんだってこんな事に・・・」 疲労のあまり、絵に行き詰まった。 「姉ちゃん、嫁に行ったのは何年前のことだろうか? 父ちゃんは許してくれるだろうか・・・ 故郷の山河の臭いをかいで歩きたい・・・ そうすれば、また良い絵が描けるようになるだろう・・・」  男は、故郷に戻る。 しかし、そこは、土砂に埋もれて跡形も無かった。  見覚えのある老婆に声をかける。「3年前になるか・・・ 酷い地滑りがあった。 父さんは地滑りで死んだ。 姉さんも子供を産んで死んだ。 もう、町に帰れ。 もう、来るんじゃない・・・」 それを聞いて、男は愕然とした。  「筆を取っても、何ももう、浮かばないのだ・・・ いっそ、見知らぬ土地に行って暮らすか・・・」
それ以来、絵師としての音沙汰が消えた。 その羽織を見ているギンコには、蟲の気配を感じている。 古美術商の親父を口説いて、半値で買い取ることが出来た。 
「このごろ、目眩がしなくなった。 調子もいい」と畑を耕す男。 近所に住む老婆が死んだ時、一緒にいた幼女を引き取りたいと願い出た。 しかし、5つになるのに、赤子のようだった。  ある日、ふと、山を見ると、山腹から煙が上がっている。 「山が・・・ 戻っているぞ・・・」 山に近づく男。 すると、ギンコに出くわした。 ギンコの持っていた羽織を見て、男が「俺の羽織だ」と言った。 
ギンコがここまで辿り着く前に、不思議なことがあった。 山にはいると、荷物が急に重くなりだして、重みのあまり、地面に食い込んでいてしまった。 やっとの事で、地面から這い出ると、羽織からも蟲の気配も言えてしまっていた。  「この羽織、この地のもので作ったものだろう?」と尋ねるギンコ。 産土という蟲が、羽織からこの土地に戻ったことになる。 男は、羽織を返してほしいと頭お下げる。  条件としてギンコが提示したのは、似たような羽織に同じ絵を描くこと。 男が筆を握ると、生き生きとした山の絵が広がっていく。 

蟲師
#19/2006-03-16
<天辺の糸>
「なぁ・・フキ。 家の勤めは来年までだったよな。 なら、、、俺と・・・」と言いかけて、帰ろうとする清治郎。 ふと空を見上げると、天から糸が垂れていた。
夜。 帚星が見えるとフキが言う。 しかし、清治郎がどんなに探しても見つからなかった。 そうした不思議な言動が多く、里の者から、白い目で見られることも多かった。 
「ん? 何ごとだ、ありゃ?」 木の上にいるフキを見つけたギンコが見上げる。 そして、気づくとギンコの後を歩いている事に気づいた。  「ほれ。これ飲め。 お前だって、早く戻りたいだろ? お前は、強い蟲に触れて、曖昧な存在になってしまった。 だから、他の人には見えないだろう・・・」といって、薬を渡す。  翌朝、フキの顔色が少し良くなった。 人の近くのほうが治りが良いという事で、里を探すことにした。 
夜、「何か・・・ 地面の底で光っている・・・ 何が光っているの?」とフキがギンコに尋ねる。 「蟲の生まれる前の姿だ。 あまり、見るな。 アレを見過ぎると、昼の光が見えなくなる。 光には、上のもある。 似て似ぬ物だ。 見誤らぬよう、気を付けろ。」 フキが夜空を見上げた。
朝、フキが飛び起きて「帰らなきゃ」と言いだした。 そして、里に戻ると、村人が驚いた。 山なら探し尽くしたと言う村人に事情を話してみるが、信じてはもらえない。  その時、清治郎がきた。 清治郎は、もう、替わりの勤め人を雇っていた。 そのことを知ったフキは、帰ることをためらう。 「なら、俺の嫁として、戻ってくれ」と清治郎が手を握る。
しかし、清治郎の親父はなかなか認めてもらえない様子だった。 清治郎は、フキが消えた時のことをギンコに話す。 空から垂れた糸を引っ張ると、空に舞い上がって消えてしまった、という事だ。  「それは、天辺草だ。 別名、迷い星とも言う・・・ 触れた瞬間、フキは人の目には見えない存在になっていた。 フキが人に戻るためには、自身の人でいたいと願う気持ちだ。」とギンコが言う。  そう言い残して、ギンコは里を去った。 
その後、ギンコのもとに届いた手紙によると、また、フキが消えたという。。。。
再び里を訪れるギンコに、あの後の話を始めた。 フキは、なかなか結婚を許されない状況の中で、だんだんと身体が軽くなっていき、風に舞うようになってしまた。 薬を飲んでも、回復する事はなく、 ある日突然、どこを探してもいなくなっている。 その話を聞いてギンコが口を開いた。  「あんたが、フキを恐れたから、そんな風になってしまった。 フキは、ここにいる。 フキを受け入れてやれ・・・」 「見も触れもできないものをどうやって」と清治郎がたじろぐ。 
「みんな、昼間はどこに行ってしまうのだろうか・・・」昔、フキと一緒に夜空を見ていたとき、フキが呟いた言葉を思い出した。 
清治郎はフキと結婚式を執り行った。 但し、フキの姿は見えない。 里の者は怪しみ、清治郎までおかしくなったと言い始めた。 清治郎は、里の外れに家を構え、畑を耕していた。  清治郎は、見えないフキに話しかけ続けていた。 そして、ある時、フキの姿が再び里に現れるようになった。

蟲師
#20/2006-03-23
<筆の海>
書物を前にして、深くため息をつく淡幽。 
ギンコは、書物を探しに、淡幽のもとを訪れる。 出迎えた老婆(たま)は、ギンコの事を良くしているようだ。 「そっちで待っておれ・・・」 錠前を開けると、薄暗い書庫に入っていく、老婆とギンコ。  「どの辺りから読みたい?」 ギンコが書物を手に取ろうとすると、「葉巻を出せ」と老婆が言ってきた。 そんなことは、分かっているとギンコが言う。 
<そう。 ここにある書物は、紛れもなく秘書である。 内容はもちろんであることと、その存在自体についても・・・> ギンコが書物の紐を解いて、読み始める。 淡幽の誕生の秘話である。  淡幽は、左足が墨のように黒い痣を持って生まれてきた。 4代目の執筆者の誕生である。 その足の痣は、蟲封じの痣だという。 何代かに一人、そう言った子供が産まれる。 その痣を持った物は、読み書きを覚え、禁種の蟲を封じていかなければならない。  禁種の蟲を全て封じ終えるころ、足の痣も消え、歩けるようになるという。 
蟲の眠らせ方。 老婆がかつて蟲師として活動し、蟲を屠ってきた頃の話を書き留めること。 その話を書き留めようとすると、幼い淡幽の足に激痛が走る。 屠られた蟲の呪そのものの痛みである。  「おつらいでしょうが、こらえてください」と淡幽に気遣う。 すると、痛みをこらえて起きあがった淡幽が「たま・・・ お前は、私のために、蟲師にならなければならない運命を背おらされたのだろ・・・」と尋ねてきた。 しかし、老婆は、淡幽に会えたこと自体がうれしく、そのような辛さは関係ないと言ってくれた。  やがて、老婆の話が尽きると、他の蟲師を招き、その話を書き留めていくようになった。 「私が書き留めてきた話は、所詮、殺生な話だ。 足の痛みは、心の痛みも伴うようになっていった。。。」 
一度、蟲師に、蟲を殺さずとも済むことはないのか? と聞いてみたことがあった。 しかし、返答は、「それは、蟲と対峙したものでないと、言えぬもので。。。」であった。 「私だって、この足さえ動けば・・・」と落胆する淡幽。  そんなときに、ギンコに出会った。 ギンコも蟲の話をしに来た。 蟲を殺生する話など聞きたくないという淡幽を気にもとめず、勝手に話を始める、ギンコ。 「殺さない蟲の話もあるぞ。まずは、ホクロを食う蟲の話だ。」 「・・・ホクロ? 話してくれ。 蟲の話。。。」
「本当は、たまの許可を得ないと入れてはいけないんだが、、、」そいって、淡幽が書庫に案内する。 「ただし、気を付けてくれ。 その書物の中に、蟲が眠っている。。。」と淡幽が言う。 うれしそうに、書物を眺めるギンコ。  「これは蟲師にとっては、宝だな。」とギンコ。 「そうだな、でも、これらは、蟲にとっては死の目録だ。 生物と蟲が共に生きている話をもっと聞きたい。 また、話をしに来てくれるか?」「喜んで・・・」

「お嬢様・・・ お目ざめですか? ギンコが来ていますが。」 それを聞いて、淡幽の顔が少し明るくなった。 「通してくれ。」  書物の読みふけるギンコ。 突然、シミの蟲動きだし、紙を食い始めた。 そして、文字列も乱れ始めた。 「やべぇ!」と焦るギンコ。  書棚の書物から、垂れ流れる文字列。 「お嬢様! 封の一部が解けました!! そちらに向かっています!」 淡幽の頭上を、文字列が蠢く。 「なぁに、この部屋からはでれぬ・・・」と冷静な淡幽。  やけに冷静な淡幽に、「また封じることは出来るのか?」と聞く。 「私にだって出来る蟲封じはあるのだよ・・・」 そういって、箸を手にした。  気づくと、さっきまで動いていた文字列が、完全に止まっている。 壁・天井に特殊な糊が塗ってあるらしい。 「巻の千八百五十三。 一の章・・・」そう言って、淡幽は文字列を箸でつまみ始めた。  つまんだ文字列を紙に落とし、貼り付けていく。 「シミが居ようと居まいと、何れ、紙は劣化する物だからな・・・ しかし、普通に写しただけでは、蟲封じにはならぬ。 だから、こうして写していく。」
淡幽は、この作業を楽しんでいるようだ。 <文字の海に、溺れるように生きている娘が一人居る。。。>
淡幽は、ギンコから、蟲の話を聞くと、紙を広げた。 「ギンコ。 終わるまで、そこにいてくれよな。。。」 淡幽が紙の上に指を降ろすと、身体の表面に文字列が浮かび上がり、それらが、指先から紙に落ちていく。 
<蟲に身体を浸食されながら、蟲を愛でつつ、蟲を封じる。 そういう娘が一人居る。>
ギンコの話を封じた淡幽。 「休まなくても平気だ。 それよりも、外が見たい」と言う。 おんぶして外に連れ出すギンコ。 「この足、いつになったら、歩けるようになるのだろう・・・ 死ぬまでに、痣が消えねば、何れ、私の子孫が受け継ぐことになる。 今まで、ずっと、そうだったように。 わたしの代でも、結局、叶わないのかも知れないな・・・」  そんな淡幽に、ギンコは、「足が治ったら、どうしたい?」と尋ねる。 「治ったら、お前と旅がしたい。 話に聞いた、色んな蟲を見てみたい。 でも、そのころは、私は老婆だろうな・・・」 「うーん。 いいぜ。 それまで、俺が、生き延びられていたらな・・・」 微笑む淡幽。  「生きているさ。」と淡幽。 「いや、明日にでも、蟲に食われてしまいそうだ。。。」とギンコ。 「・・・なんとかなるさ」淡幽が呟く。 

蟲師、地上波放送分全20話終了。 以降は、BSデジタルフジとDVDにて。 非常に良かった。 日本文化の美しい所や日本女性の美を、綺麗に表現している。

蟲師
#21/2006-05-15
<綿胞子>
「嫁入りの時、北の森を通ってきたときに着いたのだと思います。。。 気がつくと、香月綿に緑色の染みが出来ていました。 酷く禍々しいものに見えました。」 そして、今、目の前には、肌に緑色の染みに覆われた息子のワタヒコが眠っている。 歯が生えてからは、衰える一方。 「もし、見当違いでしたら、すみません。 この子、生まれたときは、人の形をしていましたか?」 「いえ・・・ 獣の形もしていませんでした。。。」 そう、あれは、獣の姿でもなく、産声を上げることもなく、緑色の得体の知れないもの。 あっという間に、床下に逃げ、消えた。 その後、妻はふさぎ込んでいた。  その1年後、床下で音がした。 覗いてみると、赤ん坊が床下にいた。 成長は早かったが、頭は赤子のまま。 しばらくの後、再び、赤子が床下にいた。 ワタヒコは半年ごとに、増えていった。 そして、今年に入って、長男の様子がおかしくなっていった。  「残念ながら、我々蟲師にも、この子を救える手立てはありません。 これが寿命です・・・」とギンコが言った。 綿飽という蟲の仕業。 「あの子は、時期に壊死します。 その直前、大量の胞子を吐きます。 その前に、殺さないと・・・」
「悪いな・・・恨んで良いぞ」そう言って、ギンコはワタヒコに薬を打った。 
最終的には、全ての子を殺さないと行けない。 しかし、夫は、出来る限り育てたいと言い始めた。 妻を失望させたくはない。 「それなのに、どうして、こんなに惨い事が・・・」  「かつては、綿飽は全部殺してその根を潰していった。しかし、分からないものの皆殺しってのは、好きではない。。。」そう言って、ギンコは文の宛先を書いた紙渡し、その村を去っていった。 
しかし、3ヶ月も経たないうちに、文が届いた。 急いで、村に入るギンコ。 「・・・キタヨ、アイツダヨ、コロサレル・・・アイツガクルヨ」ワタヒコが言葉を発した。 それを聞いた妻は、ギンコの姿を見ると、刃を突き立てた。  「分かってくれたと、思っていた・・・」夫が顔を覆う。 ギンコが去った後、状況が一変した。 次男にも緑の発疹が出た。 「オットォ、シヌノコワイ。コロサナイデ」そう訴えてきた。 「何て事だ。思考力を持ち始めた。 一人がえた情報が、全員で共有している。 人のようなもの、否。」とギンコが呟く。 
ギンコが来てから、殺される察したワタヒコは、種を守る方法を必死で模索しようとしている。 「次男の根を払い、残りの子達も、連れて行く。。。」 
「コロサナイデ、シニタクナイ、ドーシテコロスノ?」 「お前達は、人の子を食う。 だが、俺達のほうが強い。 だから、お前達は、種を残さず死ぬんだ。」「ソウカ。シカタガナイ。ヤロウ。。。」 次の瞬間、次男とギンコが居る部屋の外から、火の手が上がった。  それに気づいたギンコは「アイツら、床下の根ものとも焼くつもりか?」と焦る。 「オマエノモッテイタ、マキモノニカイテアッタ・・・ タネヲマモルニハ、コウスルシカナイ」と次男が言った。 
火に包まれた部屋に駆けつけるワタヒコの母。 そこには、3人の息子が、次男の床の周りに集まっていた。 息子たちの顔が歪み、溶けるようにして消えてしまった。 「ワタヒコ・・・」
翌朝、「根は完全に消えている・・・」とギンコ。 しかし、炭となった柱を退かしてみると、意外なものがあった。 「再生がいつになるかは分からない。 あんた達が死んだ後かもしれない・・・ いずれ、時が来るまで、あんた達に渡しておく・・・」そういって、ギンコは緑色の丸い玉を渡した。 泣き崩れる、妻。 「わかった。 肌身離さず、持っているよ・・・」
「ナニヲ、ワタシタノダ?」 「ただの鉱物だ・・・」 ギンコの渡したものは、ワタヒコの遺骨でも、綿飽でもなかった。 綿飽は、ギンコの懐の瓶の中にいた。 
「お前、眠らないのか?」
「ナゼ、ワタシヲコロサナイ?」
「お前には、まだ寿命があるからな・・・」
「フカカイナ、イキモノダ・・・」
「いいから、お前、もう、寝ろよ」


次回 蟲師 <沖つ宮>



蟲師
#22/2006-05-22
<沖つ宮>
<も一度 私を産んでくれ また会いたいのだ またこの美しい海を見たいのだ・・・>
美しい海の広がる島にギンコが訪れた。 産み直しの子の事を調べに来た。 しかし、手強い島の住人に手こずっていた。  うす暗くなってくると、海が微妙に光り出す場所があった。 ちょうど側にいた女性・澪に、あれは何かと聞いてみた。 すると、娘が駆け寄ってきた。  その夜は、澪の家に宿を借りることになった。 夕食のあと、もう一度、海の光を見ようと、外に出てみるが見えない。  澪が近寄り、「あれは、もう見えないと思いますよ。 月が出ましたので・・・ あなた、産み直しの事を聞きに、ここへ?」 その海の光は、沖にある岩の近くから発生する。 その岩の近くには、竜宮を呼ばれている海淵がある、と澪が話してくれた。  そして、そこで、命を落とした人間は、まったく同じ形で生まれ直してくるんです。 「ギンコさん・・ あの娘、普通の子だとお思いですか? あの子は、私の母の産み直しなんです・・・」
かつて、澪の母は、不治の病に倒れ、父がいきているうちに舟に乗せて、海に流そうとしていた。 澪の手を握り、「許して、、、 消えて無くなるのが恐ろしい。 また、ここに戻ると思っていたいの・・・」 そう言い残すと、舟が流れていった。  そして次の満月の日、父は澪を説得している。 「わかったわ。 その子の姿が、みんなを慰めるなら産んであげる。 でも、その子は、母さんじゃない・・・ もうマナとは呼ばない」 そして、澪は、珊瑚色の玉を飲み込んだ。 そして、生まれたのが、イサナだった。
澪は、自分が子供のころ、眠れない時に母が話してくれた事を思い出していた。。。 <眠れないときは、大きな魚になったつもりで、泳いでいる姿を思い浮かべればいい・・・>
翌日、ギンコはイサナに産み直しのことを聞いてみた。 「みんな、産み直されて幸せに暮らしてるのよ・・・」と幸せそうに答えるイサナ。 
ギンコは沖に出て、海の底を見てみるが、何も見えない。 しかたなく、次の満月まで待ってみる事にした。 <失った愛しいものを取り戻せる島 望めば永久に別れずに済む島 ならばここはまさしく楽土だ だが・・・> ギンコは改めて、澪に聞いてみる。  イサナが段々と、別れた母に段々と似ていく。 「自分で産んだ娘が、自分の娘とは思えない・・・」 
満月の夜。 竜宮の奥から、珊瑚色の玉が上がってきていた。 それを拾い、割って顕微鏡で見て、結論に達した。 「確証は無いが、あの粒の中にあったのは、色んな生物の胚のようなもの。。。 だから、あの子は、身体的には、あんたの母と同じ。 だが、あの子は、あんたに産み育てられた。 だから、あの子は、あんたの母にはなれはしない。 あの子の母はあんただけだ。」 「私が、しっかりしなければ・・・」
「明日、舟が出せそうなら、島を出ようと思う・・・ お前達の幸せを奪う権利はないからな」ギンコがイサナに言った。 これ以上、首を突っ込むことを否と判断したのだ。  「ありがとう、ギンコ。 私もね、母さんが死んだら、産み直してあげるんだ。」とイサナが答えた。 しかし、翌日、海は荒れていた。 仕方なく、島に留まるギンコ。 
その夜、台風で寝付けない、澪とイサナ。 そんなとき、イサナが、かつて澪が聞いた母の話と同じ事を言った。 <眠れないときは、大きな魚になったつもりで、泳いでいる姿を思い浮かべればいい・・・ ゆーっくり 暗い深い所に潜っていくの・・・>  それを聞いた澪は、動揺を隠せない。 外に出て、荒れた浜辺を歩いてた。 しかし、大波が澪を沖に流してしまった。 島人が探しに回る。 沖の母に向かって、イサナとギンコが舟を出す。 しかし、澪の元には、触手のような物が、まとわりつこうとしていた。  それを見ると、イサナが飛び込んだ。 しばらくすると、イサナが澪を引っ張ってきた。 急いで、舟に上げようとすると、代わりにギンコが吸い込まれていってしまった。 <このまま、引き込まれていったら、全てが始まる胚まで戻れるのか? それは、悪い冗談だ・・・> しかし、ギンコの身体から触手が離れていった。  海面に浮き上がると、嵐が止んで、月が出ていた。 「そっか・・・月か」
翌日、嵐の去った、穏やかな浜辺を、ギンコと澪とイサナが歩いている。  「あの蟲のことは、ごく一部が分かったに過ぎない。 発光して生物を誘き寄せ、元の姿に戻して排出する・・・ 生き物の時間を食う蟲。 だが、アレのことを、あんた達は良く知っている。。。。 時間が経てば、折り合いも付く。」とギンコが言う。  「あの時、あのまま、母さん、食われていても、産み直せば、また会えたのによ・・・」とイサナに言った。  「でも、そうすると、母さんの生きた時間が食べられてしまうんだよね。 そんなの寂しい。 生きた時間を誰かに食べられてしまうくらいなら、母さんのまま死んでしまう方が、まだ良い。」とイサナが答えた。  おれを聞いて、うれしそうな澪が、イサナの髪を撫でる。

<その島で産み直しは、今後も通常的に行われるだろう・・・ 死逝くものの慰めに 残されるものの空洞の埋め合わせに それを望まず死に逝く事は、得難くも幸福なことかもしれない>

次回 蟲師 <錆の鳴く聲>



蟲師
#23/2006-05-29
<錆の鳴く聲>
寒空に聞き慣れぬ物悲しい音が響いたような気がした・・・ 空耳? 人の声? ・・・・ 辺り一面に錆のようなものが広がっていた。 近づいてみると、娘・シゲが一人、立っていた。
ギンコはその近くの集落に入る。 そこでは、見た目は変わらないが皮膚のあちこちが固くなっていく奇病が蔓延していた。 ひどくなると、起きあがることも出来なくなると言う。  「町のものは、その原因がシゲという娘だと考えているのです。 10年来、ずっと口を閉ざしている。」と屋敷の旦那が言う。
ギンコは、木にこびり付いた錆を瓶に入れて、耳を近づける。。。 「なるほどな・・・」
それを持って、シゲの家を訪れた。 「あなたにも、錆が見えるの? この声は、恐ろしい声なんだ。 だから、潰してしまおうと・・・」 蟲封じの煙を充満させた部屋の中で、10年ぶりに娘が口を開いた。  この一面に広がっている錆は、ギンコとこの娘にしか見えていないらしい。 娘の声は、小柄な身体に似つかわしくない太くかすれた、しかし甘く渋みのある残響を持つ、不可思議な響きのある声だった。  「私が声を出すと、周りの人や物に錆が沸く。 その異変に気づいて以来10年間、ずっとだまり続けている。」と娘が言った。 ギンコ曰く、娘の声が屋錆という蟲の声に酷似しているとの事。  そして、蟲を払うためにシゲの声を使うという。 
ギンコは先にシゲを峠に向かわせた。 それに、テツも付いていった。 「病を呼んだものシゲの声ならば、病を払えるのもシゲの声だ。」
峠に向かう途中、足を滑らせたシゲとテツが、谷底に落ちてしまった。 <助けを呼ばなければ。。。 でも、この距離で叫んだら・・・>と一瞬躊躇する。  シゲの声が山々にこだまし始めると、町の錆が動き始めた。 
病を払う方法というのが、山々にシゲの声を反響させ屋錆を散らすこと。 しかし、今回払えた蟲はほんの一部。 この先、何年もかかるかも知れない。 
<その後、娘が去ってから、病は徐々に消えていったという。。。 けれど今も、潰れ果てたが聞き覚えのある綺麗な歌声を山にこだましているのを聞くことがあるという> 

次回 蟲師 <篝野行>



蟲師
#24/2006-06-05
<篝野行>
<火を炊け 夜が来る・・・ 火を灯せ 闇が来る・・・ 火を隠せ 骸から産まれし火が紛れ込む・・・>
荒野に青白く彷徨う火の夢を見た。 「これが、報いなのね・・・ 私は間違っていたのだろうか。。。 あの男の言うとおりにしていれば良かったのだろうか」

「この当たりのようだな・・・ ここに蟲師がいるっている話だが」とギンコが村の子供に尋ねる。 その蟲師とは、ヤハギという女性。  「ギンコと申します。 おこらで、新種の蟲が出たという噂を聞きまして・・・」 しかし、ヤハギは、蟲の調査は終わったと告げる。  草のように山に生い茂る蟲。 その蟲を焼き払うという。 しかし、その代償として、山の木や動物が消えることになる。  「他に対処は無いのか・・・ 何か力になることがあるかもしれん。 話してくれないか」とギンコが言う。  「2ヶ月前、畑を広げようと、土を起こしていると大きな岩が出てきた。 その岩の割れ目から、草が生えていた。 そしてその翌日、原一面にその草が広がっていた。 そして、花のような物から毒を吐き、周りの動植物を枯らしていった。 あらゆる、駆除方法をためしたが、上手くいかなかった・・・」とヤハギが説明をする。  それを聞いたギンコは、「それのために山を焼き払うのは、代償が大きすぎる。 賭けるなら自分たちの命だけにしろ」と提言する。 「正論だわね。 しかし、怯えきっている里のものには効かないわ・・・ どうぞ、もう、お引き取り下さい」
里では、次々に木が切られている姿を見て、ギンコは切ることを止めるよう説得するが、里の者と口論になり、小屋に閉じこめられてしまった。
「みんな落ち着いて聞いて、里の端であの草を見つけたわ・・・ 今夜にも、火を付けましょう」とヤハギが里の者につげた。 夜になって、火が放たれた。 嫌な予感がするギンコが飛び出したときには、すでに、火が広がっていた。  「あの草は、溶岩石から出ていた。 火を与えては行けない」 
そのとき、妙な音ともに、燃えた草から青白い火が出てきた。 その火は、辺り一面を浮遊しはじめた。 「みんな里に戻って! あの火を、家に近づけないで!!」とヤハギが言う。 その時、その火を飲み込んでしまったヤハギ。  「早く、そこいらの入れ物を伏せろ! アイツが巣くってしまうぞ!!」とギンコも家を回る。 あの火は陰火というもの。 雨の日や寒い日に現れて、火と思って近づいた人の体温を奪ってしまう。 陰火の中には火種という蟲がいる。  「面倒なことになった。あの草には火種が巣くっていたとは・・・ 陰火はしつこいぞ。 でも、対処できるのは、お前だけだ、 もし、手に負えなくなったら、ここの文をよこせ。」とギンコが言い残して去っていった。
しばらくして里に異変が起こった。 陰火が里に下りてきて死者がでた。 ヤハギも飲み込んだ陰火のせいで、咳き込むとあの草の葉が吐き出される。 ギンコを呼び寄せたヤハギは、蟲の新しい性質について話を始めた。  十分に熱を吸い尽くした骸から、あの草が生えてくるという事だ。 それに驚くギンコ。 ヤハギは、陰火を吸い込んでしまった事をギンコに告げる。 「火種が私の腑の中で芽を出した。 そして、毒を吐き出した・・・ 里を出て、死に場所を探そうと思っている。 だから、あなたに里を任せたいの」 しかし、ギンコは断った。  代わりに、一つ試したい事があると言った。 陰火を使って火を炊き、その火を通した食べ物でヤハギの中に巣くっている火種を焼く。 
その後、春になり、暖かくなってきた。 そんなとき、陰火が浮遊しているのを見た。 谷の方へ向かっている。 少しでも寒いところへ向かい、冬を待つのだという。

次回 蟲師 <眼福眼窩>



蟲師
#25/2006-06-11
<眼福眼窩>
<私の世界にある物は、臭いと音と味と手触り。 それで全部。 それで十分。>
「なんだろ。。。 目の何かある」少女が呟く。

街道に出たギンコは、道端に琵琶の弾き語りをする眇の少女を見かけた。 少女は、蟲の話を弾き語っているようだった。  少女は、父から聞いた話を弾き語っているらしい。 そして、ギンコを蟲師と見抜くと、もっと話を聞いていかないか?、と誘う。  少女の父親も蟲師だったらしが、すでに死んでいる。 そして、少女は眼福を見たことをギンコに言う。 「眼福を見たのか! 幻の蟲だ。」  「じゃ、私の話をしようか。。。 そのかわり、この目を山に埋めてきてくれないか?」とギンコに言った。

少女の父は蟲師で、しばし家を空けることがあった。 ある日帰ってくると、眼福を宿した眼球を持ち帰ってきた。 その目を取り出すと、眼球から蟲が飛び出して山へ逃げていった。  その後1ヶ月後、少女の目に異変が起こる。 目の奥に、光のような物を感じ、激痛が走る。 そして、世界が見え始めた。 「ものが見えるということを初めて理解した。 そしてそれは、想像を超えるすばらしいものだった。」 
「群青色。藤色。桃色。橙色。」 少女の目は、だれよりも遠くを見ることが出来た。 しかし、時とともに、見えるはずのない物まで見え始めた。 壁の向こうの丘。 丘の向こうの山脈。 さらにその先の海までも見えるようになった。  最初のうちは、夢中になったが、やがて、目眩に襲われ、瞼を閉じたときだけに闇明を得ることが出来た。 「わたしは、目を閉じていることが多くなった。 だが、時が経つと、別の物が見えるようになっていった。。。」 それは、人の未来や過去。  その後、それを頼って人が集まるようになった。 人からは千里眼と呼ばれた。 「私は、人を見ることを止めた。」 しかし、やがて、瞼が透けて外が見え始めた。 その先に、父の死が見えた。 その後、父を弔う為の旅に出、琵琶を弾いて歩くようになった。  その後も、瞼は透け続けたが、自分の未来だけは見えていなかった。 しかし、最近は、それ自体も見えるようになってきた。

「それでその目を刳り抜いて、山へ埋めてきてほしいということか?」とギンコが聞く。 しかし、少女の見た自分自身の未来は違うようだ。 少女から眼福が抜け出し土に潜り、新しい目玉が来るまで待つという未来。 
夜、ギンコは起きだし、目を治すための手立てを探し始める。 しかし、それも、少女には見えていた。 だが、少女には、ギンコの過去がよく見えないという。  「あんたは、永久に光を失うことは恐ろしくないのか?」 「恐ろしいよ。 永久に光しかない世界も。 私は、光のない世界で光を思い出して生きていくんだ・・・」と少女が答えた。 
手の届かない決められたこと・・・  翌朝、少女の目は、普通に天井を写していた。 しかし、焦点が定まらず、眼球が勝手に動く。 そして、眼球がこぼれ落ちて、畳の上に潰れた。 そこから、眼福が逃げ出した。  ギンコはそれを捕まえると、瓶に急いで納めた。 泣き崩れる少女。 「目玉が無くとも、涙は出るんだね・・・」
<ギンコが山深く蟲を埋める。 その後、そこに獣が近づく。 獣の目に美しい花が映る。 そして、それがゆっくり目玉の中に吸い込まれると、真っ暗になる・・・>これが、少女の見たその後の未来。 


次回 蟲師 <草を踏む音>



蟲師
#26/2006-06-19
<草を踏む音>
<子供の頃、谷霧の向こうにいる者達のことが気にかかっていた。 彼らはいつも五月雨の前頃現れて、雷雨が止む頃山から姿を消すのだった。。。> 
今でも山で、草を踏む音がすると、ハッとする。。。彼らが戻ってきたのではないかと・・・

この世は、人知れぬ生命で溢れている・・・

次回 蟲師 完



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