ひとひら 
ANIME REVIEW LETTERS
タイトル・サブタイトル・放送日時
ひとひら
ひとひら #03
<初舞台>


麦は、ずっとため息を付きっぱなし。 「何か天変地異でも起きて、公演中止にならないかな・・・」 
そのころ、演劇研究室では、公演本番までのスケジュール確認が行われていた。 しかし、そこに、新人二人は居なかった。  しばらく遅れて甲斐が息を切らせて入ってきた。 ホームルームが長引いたという。 そして、かなりテンパった様子で今にも泣き出しそうな顔している麦に声をかけられなかったと言う甲斐。  「あまーい!! 麦ちゃんが舞台をすっぽかすようなことがあったら、連帯責任だからね!!!」と甲斐の姉・理咲が甲斐に詰め寄る。 甲斐は、慌てて麦を連れに向かった。  その時、女子トイレの中から佳代が麦の名前を呼んでいる声が聞こえた。 「麦! 何やってるの! 出てらっしゃい!」 麦はトイレで、トイレットペーパーを手繰り寄せて引き籠もっていた。  「・・・わたし、無理だよ・・・ 舞台なんて・・・」 必死に説得する佳代。 そんなやりとりを女子トイレの外で聞き耳を立てていた甲斐に、理咲が声をかける。 「あんた。 何やってるの?」  演劇研究会のメンバーもやってきた。 「あ。麻井がこの中に・・・」と事情を説明する甲斐。 「公演が終わるまで、すっとここに隠れている気?」と佳代の説得が続く。 そこに、野乃がやって来て「それなら、一つ忠告しておくわ・・・」と、トイレの中の麦に向かって話を始めた。  「このトイレ、夜になると、出るわよ・・・」 何でも、曰く付きのトイレらしく、去年の今頃も、吹奏楽部の女子がもののけの類に襲われた、と・・・ そんな話を聞いてしまった麦は、絶叫してトイレから逃げ出してきた。 そこを、理咲がキャッチ。 「捕獲、成功!」 「じゃ、麻井さん、いきましょうか?」とクールに野乃が言う。  ついに観念した麦。

放課後、公演のビラ配りが始まった。 そこへ、演劇部の部長がやってきた。 「これはこれは演劇研究会のみなさん。 どうせ廃部になるのに、無駄なあがきを・・・ 懲りない人たちね」と部長・美麗が言う。  「あら? 誰が廃部になるなんて言ったのかしら? 廃部になるのは、そちらのほうではなくって?」と野乃も言い返す。 「そうねぇ。 一億分の一の確率であるかもね。」と余裕の美麗。  麦は、怖くて佳代の後ろで小さくなっている。 美麗は、ビラを一枚手に取ると、「ふーん。 この麻井麦って、そちらの新人さん? この子、舞台嫌いって聞いたけど、そんな人を舞台に上げなければならないほど、人材不足なの?」  「あの子の才能は本物よ。 演劇部の部長でも、そんな事も見抜けないの?」 「まさか!」と美麗は一瞬焦る表情を見せるが、そのまま部室に戻っていった。  演劇部が去った後に、やっと麦が佳代の背後か出てきた。 そし野乃に近づいて、「先輩。 さっきのって・・・」 「売り言葉に買い言葉よ。 くやし紛れに言っちゃったんだから、仕方ないでしょ・・・」と答える野乃。 ちょっとがっかりな麦。

  美麗が部室に戻ってくると、ちとせが居た。 美麗はちとせに、「あなた最近、演劇研究会によく顔を出しているんですってね? で、どうなの? 演劇研究会の稽古の様子は?」と尋ねた。 「えっと・・・ 頑張っていると思いました」と答えるちとせ。  その答えを聞いた美麗は、「そう・・・」とだけ言い、後輩達に早く帰るように促し、部室を出ていった。  部長の美麗が去った後、部室に残った後輩は、部長の苛つきの原因の噂について話し始めた。 気になったちとせは、「噂ってなんですか?」と聞いてみる。 「あくまで、噂なんだけど・・・」と前置きをして話してくれた。

舞台となる講堂では、ゲネプロが行われていた。 舞台の上手[かみて]も分からない麦は、右往左往していた。 そんな麦に優しく指導する野乃。 「ここで出のセリフよ。 言ってみて」と野乃が床に目印のテープを貼りながら言う。  「え? 出のセリフ?」と麦。 立ち位置に立っても、声が出ない麦。 「麻井さんの出番は、ほんのちょっとだから、頑張って」と励ます野乃。 そこへ、噂を聞いたちとせが走り込んできた。  「あの! 野乃先輩。 声帯麻痺って本当ですか? もし、本当なら、役者やってちゃダメでしょ?」を大声を出すちとせ。 しばらく間をおいて、野乃が口を開く。 「そうよ。 全部あなたが言ったとおり。 だから、騒がないでくれる?」  そして、美麗もやってきた。 「神奈さん、帰れって言われなかった? 何言ったかは知らないけど、バカには日本語が通じないのよ。」と美麗。 「悪いけど、神奈さんを連れていってくれるから?」と野乃。  「当たり前でしょ。 ウチの子のせいで公演が出来なくなった、なんて言われたくないでしょ」と言い、美麗とちとせは講堂から出ていった。 

開演時間も迫り、最終準備に入る。 「麻井さんは、私と一緒に来てくれる?」と肩に乗せた野乃の手の震えが麦にも伝わってきた。 

開演間近になって、部長を撒いてきたちとせが隠れるように講堂に入ってきた。 そして、その直後に美麗もやってきた。 「なんで部長が?」と焦るちとせ。 開演のブザーが鳴り、野乃が開演の挨拶をする。 
『運命の出逢いというものは突然。 ほんの偶然の事から起こるものなのです。 それは、遠い日の思い出。 かけがえのない記憶。 それではみなさん、どうぞご覧下さい。』
舞台袖に戻ってきた野乃、カーテンにしがみついて見ていた麦に声をかける。 「一場面、終了。 どう? 麻井さんが演じるのも、これくらいの時間なのよ・・・」 「は・・・はい」と小さく頷く麦。  舞台上では、たかしと理咲の演技が始まった。 その様子を見ていた麦に、野乃が話を始めた。 「去年の夏だったかしら・・・ 急に声が出なくなったの・・・ 一過性のものだったけど、その後、癖になっちゃてね・・・」  喉の使いすぎが原因だった。 「大丈夫なんですか?」と麦。 「どうかしらね。 それでも役者を続けたいと言ったら、友達が頭に角を生やして怒ってたっけ・・・  わたしが、こうなれたのも、その大切な友達のおかげ。 実は私も、とても舞台に立つような人ではなかったのよ・・・  私って、表情とかあまり変わらないでしょ? 昔からでね・・・けっこう悩んだりしたんだけど、そんな私に、手を差し伸べてくれた人がいたの。 その人は、私に、演劇の世界が楽しいってことを教えてくれた。」
『今この時、この瞬間は、私の中でかけがえのないものだから・・・ 私、今を止めたくないの』 舞台上の理咲のセリフ。 
「今を止めたくなかった・・・」とそのセリフを追うように野乃が続ける。 「彼女がくれた時間・・・ 演劇に情熱を燃やせるこの時間を失いたくはなかったの。」と自分の演劇に対する思いを話す野乃。  そして、麦の出番が近づいてきた。 「準備は良い?」と言われ、自分が舞台に立たなければならないことに気づいた麦。 急にパニクり出す。 そんな麦に、野乃は手を差し出す。 「手、貸してみなさい・・・」と麦の手を取る野乃。  野乃は自分の胸元に麦の手を近づけ、目を閉じた。 「緊張したときは、こうすると良いって、その人が教えてくれたの。。。 どう?」 「・・・ほんとだ・・・ 少し落ち着いたみたい・・・」と麦。 そして、野乃は、合格発表の時に響いた麦の声を聞いたときのことを話し始めた。  「羨ましかったのかもしれないけど、ゾクゾクしたわ。 大丈夫、自分に自身を持ちなさい。 あなたには、誰にも負けない声がある。」そういうと、麦の背中を押す。 立ち位置に向かって歩き出す麦。 袖から出ると、スポットライトが当たる。  「頑張れ、麦!」「頑張って、麦チョコ!」と佳代とちとせも応援する。 ゆっくりと、舞台上の理咲に近づく麦。
『どうしたの?』と理咲。 しかし、麦は声が出ない。 『あのね、お姉ちゃんに何か用かしら?』と理咲がセリフを入れる。  最初の一声が出ない麦。 振り返ると、野乃がさっき自分を落ち着かせようとやってくれたように、胸に手を当てている。 ”自分に自身を持ちなさい”野乃の言葉が心に響く。 深く息を吸い込み、目を閉じる麦。 そして、目を開いた。
『あのね。 お姉ちゃん!』
声が出た。  その声の通りに美麗も驚く。 麦と理咲の演技は続く。 『また、会えるよね・・・』 『もちろんよ、この戦争が終わったら、きっと・・・』
感動した佳代とちとせが席を立って、拍手を送る。 美麗は見終わるとすぐに講堂を出ていった。 「野乃。 10月の公演、楽しみにしているわよ。 それが、あなた達の最後の公演になるんですから・・・」

ひとひら #04
<頑張ってる・・・!?>
麦は、教室の自分の机で暗い顔をしている。 国語のテストで回答欄がひとつずつズレてしまって、すごい答案用紙が返ってきたらしい。  その答案用紙を覗き込む甲斐。 甲斐の答案用紙を見上げる麦。 ”同志よ!”と言わんばかりの顔で固い握手を交わす二人。 そして、大きくため息を付く。 そこへ、ちとせがやって来た。 ちとせは、麦に演劇についての本を貸してあげようと持ってきた。 しかし、麦は、「演劇、さぼっちゃおうかな・・・」と言う。  「麦チョコが不良になったぁ!」ちとせが言うと、「不良・・・?」麦の妄想が始まる。 ”部活? たるくてやってらんねーよ” ドクロのヘアピンの麦ちゃんが悪態を付いている姿は、それはそれでかわいい。  部活をサボろうとしてる麦に、今度は、甲斐が声をかける。 「殺されるぞ。 主に、野乃部長に・・・」とか仲良く話をしていると、今度は演劇研究会メンバーがやって来た。 「あれ? ふたり、デキてんの?」と 仲の良さそうな麦と甲斐の姿を見て、たかしが言う。 「おめでとう。 気が付かなかったわ」と野乃部長。 メンバーは、そろそろ新人が練習をサボろうと考える頃を見計らって、教室まで参上仕った訳だ。  逃亡しようとした甲斐は、理咲に速攻で捕まる。 麦は風邪っぽいと言って、その場から逃げようと試みるが、「そんな演技じゃ、誰もだませないわよ。 ということで、連行!」とあっさり、野乃部長に見透かされる。  そのまま、二人は、強制連行させられ、校庭でのランニング特訓が始まった。 

息が切れて苦しそうな麦。 他のメンバーは、走り終わった後に、発声練習をし始めた。 そして、次は、即興劇の練習。 「む、無理です・・・」と即興劇の説明を聞いた麦が言う。  舞台は喫茶店。 甲斐がお客、麦がウェイトレス。 「い、いっらっしゃいまぁせ。 ごちゅぅもんは?」 「えーと。 コーヒーひとつ。」 「こひー、ひとつですね。 ごゆくり、おまちください」なんとも辿々しい日本語の麦。  それを見ていた野乃は、「なるほど、アジア系留学生のウェイトレスという設定ね。 リアリティあるわ。」と感心している。 「そんなじゃないと思うけど・・・」とたかし。 麦は、右手と右足を同時に出しながら、あからさまに怪しい歩き方をしながら、 メンバーに背を向けて歩き出した。 数歩、歩いたところで、ダッシュ! 脱走を止めようと、たかしと理咲も走り出す。 「すごいわね。 逃げ出すウェイトレス。 観客も舞台に上げるなんて、すごいじゃない。」と野乃部長。  しかし、すぐに捕獲されてしまった。

やっと練習から解放された麦。 下駄箱でため息を付いていると、演劇部の美麗部長に声をかけられた。 「練習、終わったの? 気を付けて帰るのよ。」 すると、その背後から野乃が近づき、「ウチの子に、手出したら、殺すわよ・・・」よ言う。  「ちょっと話しかけただけでしょ」と呆れる美麗。 ここから、野乃vs美麗が始まる。
「だいたい嫌らしいのよ。 練習を覗き見するなんて。。。」
「校庭のど真ん中で練習してたくせに、のぞき見るも何も無いでしょ!」
「全く、演劇部って、いけ好かなさすぎ」
「何よ! 研究会のおたんこ茄子の余市!」
二人に気づかれないように、こっそり帰ろうとする麦。 しかし、野乃部長のネタに捕まる。
「知ってる? 麻井さんは学年で50番以内に入る実力は持っているのよ。」
「はぃ? 先輩何の話ですか?」と麦。
「中間試験の話。 全てに於いて、演劇部に勝らないとダメでしょ。」と野乃。
「そんなの無理です。」
「がんばれ。」と一言、野乃部長。
「大丈夫よ、私が手取り足取り、教えてあげるわよ。 こうなったら、全員50番以内に入れてあげるわよ!」とだんだん野乃部長の気合が入ってきた。 

その夜、みんなで集まって、台本読みのような勉強会が始まった。 こんなの意味あるのか?と、言う甲斐に向かってたかしが、「野乃の言うことは絶対なんだぞ。 なんたって、演劇研究会の部長様だ」と煽てる。  それを聞いた野乃は、たかしに、空気椅子をしながらお茶を飲んで腹筋を鍛えるよう命じる。 自分の発言が発端になってしまった以上、拒否することも出来ず、空気椅子に耐えるたかし。  「空気椅子って、腹筋? 太股じゃ・・・」と麦が小声で言う。 「良いんだぞ。 声を大にして言っても・・・」と甲斐。 

麦は、野乃にずっと聞きたかったことを聞いてみた。 「なんで、演劇部をきらっているのですか?」 一瞬、空気が止まったような感じがした麦。  「嫌っている、というのはちょっと違う。 ただ、私が演劇をすることに対して、良しとするか否とするか・・・ ただそれだけ。 ただ、それでも、私の声のことを知っている人自体、少ないんだけど・・・」と野乃がお茶を入れながら答えた。  そして、たかしと理咲は、野乃に賛同して研究会を作ったということ。 「でも、どっちが正しいかと言えば、向こうが正しい・・・ でも、間違っていても構わない。 私の人生だもの・・・私が選ぶわ。」

勉強会が終わって、野乃は、たかしに麦をちゃんと送るように言って、一人で帰ってしまった。 「送り狼になっちゃダメよ!」とたかしに言う。 たかしと二人きりになってしまったことに気づいた麦は、 こんなことが、ちとせにバレた場合のことを想像して青ざめている。 「殺される・・・ 間違いなく・・・」 そんな麦を見て、たかしが心配する。 「麻井さん、大丈夫? 麻井さん、頑張っているから。」 「私、頑張ってますか?」 「もちろん。 研究会のメンバー全員が保証するよ。」 
帰り道、野乃の事について話をするふたり。 野乃なぜ演劇に入った訳を聞かされる麦。 野乃を演劇に誘ったのは、演劇部部長の美麗だった。 その事を聞いて、驚く麦。 そして、最後まで野乃の演劇継続を反対し続けていたのも、美麗だった。 

家に戻った麦。 頑張ろうと机に向かうも、ちとせから借りた演劇の本を手に取ってしまう。 <演劇には不思議な魅力がある・・・>  そのころ、一人で帰った野乃は、公園で発声練習をしていた。

そして、中間試験の発表の日がやってきた。 次席表の前に演劇部部長の美麗と研究会のメンバーが揃う。 「今、謝るなら、部費献上の話は、なくしても良いけど?」と美麗。 「部費献上?!」と驚くメンバー。  「謝る? この私が? 冗談でしょ?」と野乃。 絶望的な雰囲気の中、野乃が続ける。 「何のために私が教えたと思っているの? 30番以内なんて、簡単なものよ。」 さらに絶望的な展開に石化するメンバー。  野乃部長6番。 たかし25番。 と来て、理咲が暴走する。 「人間、やれば出来るなんて嘘なのよ! ダメなものはダメ! 斯くなる上は・・・」 表を引き剥がし、丸めて甲斐にパス。 そのまま、逃走してしまった。  その暴挙に、野乃部長がキレた。 理咲を追って、野乃が迫る。 「出てきなさい。 出てこないなら、殺すぅ」と野乃。 「出ていったて、殺される・・・」と隠れる理咲。 そこへ、野乃が迫ってきた。 「理咲〜ぃ」と野乃。 しかし、咳き込んで蹲る野乃。  部長の異変を察して、出てきてしまった理咲。 近づいてきた理咲の手首を捕まえる野乃。 「つっかまえたぁ」と罠にかかる理咲。 そして、理咲の絶叫がこだまする。 その声を聞いたたかしは、「とりあえず、線香を・・・」と合掌する。 

麦は、美麗と一緒に、野乃たちが戻ってくるの、待っていた。 「あんなメンバーと一緒にいて、疲れない?」と美麗。 「はい!」と即答の麦、しかし「いや、全然・・・」と言い直す。  「大変な時もありますけど、楽しい・・・ですよ。」 「そう。 どうしようもないヤツらだけど、あなたが楽しいなら良いんじゃない」と美麗が言う。  そこに、理咲を連れて野乃が戻ってきた。 「一匹は捕獲した・・・」と野乃部部長。 「麦ちゃん、あとは頼んだ・・・」と言い残し理咲は絶命。 そして間もなく、甲斐も捕獲。 

そして研究室に集まって、何ごともなかったかのように、来るべき夏休みの合宿にちての話が始まった。  「分かっていると思うけど、学生演劇だからと言って、半端な気持ちでやる気はありませんから。 そして麻井さん。 夏が終わる頃には、それなりに育ててあげるから。 あなたも頑張ってね。」  理咲とたかしは、壮絶を極めそうな合宿を想像して話をしている。 「生きては帰れない・・・」「俺、一番高い保険に入ってくる」 そんなやりとりを聞いた麦は、 「わたし、やっぱり不良になります!」と言いたい気持ちで立ち上がるも、「無理とは言わせないわよ」と野乃に先に言われてしまう。 

     *    *    *

野乃が病院の診察室にいる。 「そうですか・・・ 酷くなっていますか・・・」

ひとひら #05
<うわぁぁぁぁん>
夏休み。 合宿が始まった演劇研究会。 まずは、みんなでカレーの準備。 「昼ご飯、食べ終わったら、ミーティングするから。 寝る・食べる以外は練習だと思って」と野乃部長。  その言葉通り、夕方になっても野乃部長殿の練習というよりむしろ特訓は壮絶を極める。 海に潜って息を止める特訓のどこらへんが演劇と関係するか疑問の部員。 「肺活量を増やす練習よ。」  「カレー食べた後にコレはキツイよ、野乃さん。。。」「海に来てるのに、ちっとも楽しくないよ!」と、たかしと理咲が口々に文句を言う。 そして理咲は、「なんで、あんただけやらないのよ? ほんとは水に入るの、怖いんじゃないの?」とちょっと挑発してみせる。  それを聞いた野乃は、海に向かって歩き出すと、全力で沖に向かって泳いでいってしまった。 「野乃さんを怒らせるんじゃないぞ・・・」と麦と甲斐に耳打ちするたかし。

夜になって、コテージに集まり、台本の読み合わせを行う。 その台本は、野乃が書いたもの。 私の運命を変えたあの日の出来事。 それは、人生の大切なひとひら・・・ タイトルは『ひとひら』
「で、麻井さん。 主役、あなたよ」と野乃が言う。 「え? 何でですか?」と疑問の麦。 「みんなを見て、台本書いたのよ。」と野乃。 「わたし、出来ません。」と野乃に縋る麦。 野乃が相手にしてくれないので、次に理咲に縋る麦。  「野乃が、ああ言ってるとおりに、素でも演じられそうだし・・・」と理咲。 「後ろ向きなところとか、振り回されっぱなしの所とか・・・」とたかしと甲斐も、台本を捲りながら、配役は適材適所だと確信している。  「セリフさえ覚えちゃえば、大丈夫じゃない?」と麦の頭を撫でながら理咲が宥める。 「・・・じゃ、役者自体、やりたくないです・・・」と落ち込む麦。 
そんな状況の中、台本の読み合わせが始まった。 しかし、麦は、全く気が乗らず、モソモソとセリフを言うだけ。 そんな状況を見て、たかしが野乃と話をするために、コテージの外に呼び出した。  「用件は分かっているから、手短にお願い。 配役のことでしょ?」と野乃。 たかしは、「いや。 デートのお誘い!」と冗談を言ってみせるが、野乃は相手にしてくれなかった。 「つれないなぁ・・・」とたかし。 そして、本題に入る。  「野乃さん。 焦りすぎ。 いい本だと思うよ。 確かに、この役は麦ちゃんが適任。 でも、今のあの子には、ちょっと速すぎないか? 舞台に立っただけで一苦労なのに、主役だなんて、プレッシャーで潰れちゃうよ・・・」とたかし。  「大丈夫よ。 出来るわ。 やれなくても、やるの。 彼女はこれをいやらなくちゃいけないの。」と野乃が答える。 「考えあってのことだろうと思うから、フォローはするけれど、引き際は見極めなよ」と言うと、たかしは立ち上がり、コテージへと戻っていった。  「引かないわ・・・」と野乃。 

その後も、読み合わせが続く。 しかし、だんだん、だらけムードが漂ってきた。 「やめ! 理咲、ちょっと弛んでるわよ!」と野乃がダメだしする。 「もう、10時過ぎてるし・・・ みんな疲れているわよ」と愚痴る理咲に「ダメ。 寝るのは12時。 それまでは練習って言っておいたでしょ?」と野乃が言う。  「それから麻井さん。 声、出てないわよ。 何度も言わせないで。」と野乃の矛先は麦にも向けられる。 「あなたの為に、人気のない場所を探したのよ。 恥ずかしいから声が出ないなんて、言わないでね!」と野乃。  「辛い・・・ 私、こんなところで何やっているんだろ・・・」と落ち込む麦に、隣から「大丈夫だよ麦ちゃん。 自身もって、声をだそう。 良い声持ってるんだしね。」と励ますたかし。  しかし、声を持っていても、それを舞台で出せなければ意味ないと後ろ向きな麦の態度に、「辛いかもしれないけど、頑張りなさい。」と言う野乃。 
「・・・頑張ってます」
「じゃ、もっと頑張りなさい。」
「頑張れ頑張れって言うけれど、無理なものは無理です・・・ なんでも出来る先輩に、私の気持ちなんて、分からないですよね?」
”なんでも出来る”という言葉に野乃が反応する。 「なんでも出来る・・・って、あなた、私のことどれだけ知った上で、その言葉が出てくるの?」  麦には、部活を立ち上げ脚本も書ける野乃の姿が、なんでも出来る人間に見えていた。 「なんでも出来る人に、頑張れって言われても、私・・・」と俯く麦。  そして、野乃は、台本を床に叩きつける。 「そんな考えだから、あなたはいつまでたっても、何も出来ないんだわ。 もう、いいわ。 演劇なんて辞めてしまいなさい。 帰って良いわよ。 そして、一生、何も出来ない麻井麦でいるといいわ。」と言い放つ。  「・・・分かりました」と言うと麦は、立ち上がり、「今までありがとう御座いました」と頭を下げると、出ていってしまった。 「麦ちゃん!」と声をかける理咲。 しかし、振り返ることなく走って行ってしまった麦。 「早く追いかけて!」と甲斐の背中を押す理咲。  「放っておきなさいよ・・・ あの子は自分から出ていったの。 弱いあの子が悪いのよ」と言う野乃に、理咲がブチキレた。 野乃に歩み寄ると、グーで殴る理咲。 「女同士なら、グーでも問題ないわよね!」と理咲。 そして、野乃も反撃する。 理咲の足を掬い「ケンカは買う主義」と威嚇する。 
「あなたは、自分が何をしたか、分かってるの?」
「あの子は、この役をやらなくちゃいけないの!」
「誰のため?」
「あなたの勝手な思いを押しつけられたって、あの子には迷惑だよ!」と怒りの収まらぬ理咲が、再びパンチを入れる。 しかし、理咲は自分の目の前に、パンチで倒れかけた野乃の膝が近づいてきた事に気づいたときのは、もう遅かった。 そのまま蹴りを喰らって、ダブルノックアウト。 

麦は、浜辺で足が縺れて、倒れる込む。 「痛いよ・・・」と怒りと惨めさで、涙が込み上げてくる。 そして、ずっと握りしめてきた台本を、海に向かって投げ捨て、声を挙げて泣き出した。
そこへ、後を追ってきた甲斐がやってくる。 一緒に帰ろう、と手を差し出す甲斐。 首を横に振る麦。 「戻らない。 戻れないよ・・・ 私の居場所なんて、無いもん。 わたし、先輩の言うとおり。 取り得もなくて、流されてばかりで・・・ 何も出来なくて・・・ だから、頑張ってみようと思ったけど・・・」  頑張ってみようと思った所に言われた野乃の言葉が麦に重くのしかかる”一生何も出来ない麻井麦でいればいい” 「頑張ってみようと思ったのに、そんな簡単に帰られる訳ないもん・・・ だから・・・」と言うと、また泣き出す麦。  「じゃ、俺もここに居るよ。」と麦の近くに座る甲斐。 「だめだよ。 甲斐くんには関係ないもん・・・」 「お前をおいて、帰れる訳ないだろ。 ・・・それに、関係ないなんて、言うな」と甲斐。 
麦は、「なんでこんな所に来ちゃったんだろう」と地面を見つけている。 そんな麦に、甲斐は、空を指さす。 見上げた空には、満点の星空。 「すげーよなぁ。 街じゃ、こんな星空、見えないぞ。 これを見に来たんだよ、たぶん」と笑ってみせる甲斐。  その言葉に頷く麦。 

しばらくして、心配になってたかしも外に探しに出てきた。 そこへ、甲斐と麦が戻ってきた。 「二人とも無で良かった・・・」と駆け寄るたかし。 「ご心配かけて、すみませんでした・・・」と謝る麦。 「俺のほうこそ、上手くフォローできなくてごめんな」とたかし。  そして、甲斐が麦の手首を握りしめている姿に気づくたかし。 ”へぇ・・・ 青春、発見。”

コテージに戻ると、荒れた部屋で野乃と理咲が、ダウンしている姿に驚く麦と甲斐。 「いつの時代も、女性は強し ですよ」とたかし。 
暗くなった部屋で、”一体誰のために?”という理咲の言葉を思い返し涙ぐむ野乃。


ひとひら #06
<・・・変われますか?>
演劇研究会の夏合宿。 ちょっぴり期待していたのに・・・。

朝を迎えて、みんなで仲良く朝食を取ろうと、たかしと甲斐が盛り上げようとするが、「うるさい」と野乃に一喝されてしまう。  「それじゃ、冷静に話し合おうじゃないか。 野乃さん。 何か言うことあるんじゃないのか?」とたかしが野乃に真面目に聞く。 「ない。」と一言。  たかしは、席を立って、森に向かって歩き出した。 たかしの姿が消えた直後、森の中から凄まじい音がが響いた。 しばらくして、たかしが戻ってくると、もう一度、野乃に同じ事を聞いた。  「何か言うことあるんじゃないのか?」 「ひとつあったわ。 今日は、10時から稽古を始めます。 それと麻井さん、帰ったんじゃないの?」 そして、ついに理咲がキレた。  野乃に向かってサラダの入った器を投げつけ、「そんな考えをするなら、アンタが演劇辞めちまいな! 練習、出ないからね!!」と言い捨てて、浜辺のほうに歩いていってしまった。
麦は、理咲の険悪な雰囲気の原因が自分にあると感じ、萎縮してしまっている。 「今は、演劇を辞めるか、このままもうちょっと頑張るか、それだけを考えていればいいわ・・・」と野乃が言い残し去ってしまう。  そして、テーブルの上には、最高の演出をする予定だったサラダの断片が散らばっている。 それを見た甲斐が、「先輩。 この後かたづけをするのは、俺らですか?」と聞く。 「。。。言うな。 虚しいから」と答えるたかし。

部屋に戻った野乃は、なぜ自分が演劇を始めたのか、その理由を思い返していた。 理咲は、浜辺で砂山を作って遊んでいる。 理咲の所にたかしがやってくる。  理咲の作った山は、すぐに波に浚われて崩れてしまう。 「こういのって、人間関係ともちょっと似ているよね。 ちゃんと固めないと、ちょっとの波で崩れたり・・・」と理咲が呟く。 「誰のことを言っているのか? ま、波で崩れても、また固めて作ればいいじゃないのかな?」とたかし。

午前の練習の時間になり、野乃が誰も集まらない部屋の中で、一人で発声練習を始めた。 表では、部屋に入れずに片づけが終えられない甲斐が嘆いている。 その時、ふと、昨晩の麦の手を握った時のことを思い出した。 「麻井の手、温かかった・・・  何、考えているんだ、俺!」と一人で妄想に焦る甲斐。
麦は、なぜ自分が演劇に誘われたのかについて考えていた。 声? 人が足らなかった? 「わたしだって、ちょっとした役だったら、頑張ってみようと思ったのに・・・」と木陰に座り込む。 野乃は、一人で台本を読み始める。 自分の書いた本の内容に、「偽善者も良いところだ・・・」と言う野乃。  「美麗。 あなたが私に教えてくれたことを、私はあの子に教えたかった。 でも、あの子は私とは違う。 私があなたとは違うように・・・」

「辞めちゃおうか・・・ 今なら、辞められる。 嫌な辞めかたになっちゃうけど。」と思う麦。 しかし、野乃の言葉がいろいろと思い返される。 その言葉から、麦が自分のことばかりを考え、野乃の気持ちを全く意識していなかった事に気づいた。  麦は立ち上がり、コテージに向かって走り出した。
麦は、一人練習している部屋に入る。 「麻井さん・・・ 遅い! ・・・帰る準備のほう?」と言う野乃。 麦は台本を握りしめながら言う・・・
「私、先輩に凄く失礼な事を言いました。 その・・・主役なんてやれる自信はありませんけど、あの・・・」
「やりたいの? 麦! 自分が変われると信じるのなら、出来る」
「はい。 あの、先輩、演劇は好きですか?」
「好き。 とりあえず、今の私の全てだと思う。」
「私でも変われますか? 先輩みたいに・・・」
頷く野乃。
その様子を表から見てた、理咲一同。 「これって、散々振り回して、結局事故解決してない?」 「むしろ理咲は、火に油を注いだって感じが・・・」 とか騒いでいると、窓を開けて野乃が「うるさい!!」と一喝する。  そして、全員揃って練習が始まった。 
練習は始まったものの、麦の読み合わせは相変わらず。 野乃の厳しい指導が続く。
夜になって、露天風呂に入る。 天の川を見上げながら、演劇に戻れたきっかけを作ってくれた甲斐に感謝する。 そして、花火大会が始まった。 あまりの力ではない野乃に、理咲が怪しげなドリンクを無理矢理飲ませた。  その後、野乃の目が虚ろになり、打ち上げ花火を握りしめ理咲に向かって歩み寄る。 そして、次は、麦に絡みつき、「がんばれー・・・ きっと出来るから・・・ あと、ありがとうね」と言うと眠ってしまった。 

夏休みも終わり、新学期。 「麦。 何か感じ変わったね? 何か、目が違う。 さては、夏合宿で何かあったわね・・・」と佳代が覗き込む。  その言葉に、一緒にいた甲斐までも赤くなって焦り出す。 その挙動に佳代が「あれ? もしかして、あんたたち・・・ ほほーん」


ひとひら #07
<友達なのに・・・>
演劇部のポスターの上に研究会のポスターを貼りまくる理咲。 「どうよ、この威風堂々たるポスター・・・」全面に麦の姿が載っている。  「だめー だめだめだめー 見ないでぇ」それを必死に隠そうとする麦。 その言葉虚しく、理咲に強制連行されていく。 

「麻井さん! そこ違う!」と野乃の厳しい演劇指導が続く。 そんな様子にたかしが野乃に声をかける。 しかし、野乃は、「今このときは今しかないのよ。 なら、今やるべき事はひとつ。」と自信ありげに答える。 
そこへ演劇研究会、というか桂木先輩の事が気になって仕方のないちとせがやって来た。 研究室の前に来ると、練習の声が聞こえてきた。 「え? 今の・・・ 麦チョコ? 声が良いことは前から知ってる。 でも、今までと違う・・・」 麦の声に驚くちとせ。

文化祭の近づき、舞台用の備品のチェックを始める演劇部と演劇研究会。 演劇部では、あるはずの暗幕が無くなっていることに気づく。 逆に、研究会では無いはずの暗幕があった。 「ちょっと、とある所から拝借してきただけっすよ」と理咲が言う。  それに野乃部長様がご立腹になる。[;※Д※]<ゴラァ。 結局、野乃がこっそり戻すことになった。 野乃が備品倉庫に籠もっていると、そこに美麗が暗幕を探しにやってきた。 美麗vs野乃の戦いが始まった。  戦いが収まって倉庫から出ようとすると、扉の建て付けが悪く、開かなくなってしまっていた。 運悪く、倉庫は後者の裏。 人なんて滅多に来ない。 「誰かぁ! 助けてぇ!!」と美麗が大声で助けを求める。  それに反応した野乃も演劇研究会部長として声を張り上げる。 「だれかぁ! たすけてー!」 それに驚いた美麗が、野乃の口を手で塞ぐ。 美麗は野乃の声帯麻痺を知っている。 しかし、その手をはね除け、再び大声を出す野乃。  しかし、次の瞬間、野乃は、自分の喉をさすり、しゃがみ込んでしまった。 「まさか・・・」と美麗。 野乃は、転がっていたスケッチブックに【声 出なくなったみたい】と書いた。

「なんでそんなに冷静なの・・・」と涙を流す美麗。
【あんたが泣くことじゃないでしょ】
「ふざけないでよ! あんたに演劇を勧めたのは、私なのに・・・」と顔を覆い座り込む美麗。
啜り泣く美麗の姿に、自分が演劇に誘われた時のことを思い出す野乃。 ”じゃ、一緒に演劇、やってみない? 自分じゃない自分になれるって楽しい事よ。 ひとりじゃ出来ないこと、教えてあげる。”その一言がきっかけだった。  しかし、お終いの日はやって来た。 文化祭間近の雨の日、野乃が声帯麻痺になってしまった事を美麗に告白した。 それを聞いた美麗は、その原因が自分にあると責める。 それでも、役を降りないと言い張る野乃に美麗はキレる。  それが意見の相違となって、野乃は演劇部を離れることになった。 
「あんたって人は、無茶よ。 自分勝手よ! 呆れるわ。腹が立つ! たかが演劇じゃない。たった3年間よ! 身体なんて、一生の事じゃない! 心配して何が悪いの!! どうして・・・ こんな、思いするのなら、演劇なんかやらなければ良かった・・・ ねぇ、野乃。そんなに私のことが嫌い? 相変わらず、何考えているか分からないし、そんなんだから友達も出来ないのよ・・・」
【友達くらいは いる】
「理咲や桂木くんのこと? 良くあんたとなんか付き合ってられるよ・・・」
【榊 美麗】
そこに、自分の名前が書かれるとは思っていなかった美麗。 それを見た瞬間に涙が溢れ出る。 「あんたなんて・・・ 友達じゃないわよ・・・ 自分勝手で・・・」 そんな美麗にそっと手を伸ばし涙を拭う野乃。 
その様子を、野乃を探していた麦が見ていた。 「切ないなぁ。。。 大好きなのに。 友達なのに・・・」と声はかけずに、二人きりにしてあげようと思った瞬間、くしゃみが出てしまった。 「へくしょぉーん」  そのくしゃみで、外に麦がいることに気づいた美麗は、自分たちが閉じこめられていることを伝え、職員室に行って誰かつれてくるように頼んだ。

そして翌日、野乃は、すっかり元気になってやってきた。 寝たら治ったらしい。 「全然、平気よ」と他人事な野乃。 心配損でキレたのは、また美麗だった。


ひとひら #08
<一人じゃない>
運命の日。 文化祭が始まった。 演劇部vs演劇研究会。 その前に、麦と佳代はクラスのイベントの準備で着替えている。  出てきた姿はメイドコスプレ。 麦のメイド姿を見た甲斐は、グッジョブグッジョブと大喜び。 クラスの模擬店の前で、ノリノリで呼び込みをする佳代の隣で、固まっている麦。  そこに通りかかった男子が、麦に集まってくる。 そこに甲斐が割り込み、「ちょっと、何やってるんですか!」と麦に抱きつく。 その熱いお二人を佳代がちょっかいを出していると、 猫のかぶり物をした野乃がやってきた。 「今の時間ならまだ演劇部の公演に間に合うわ。」と麦と甲斐を連行していく。

講堂に入ると、美麗とちとせが白熱の演技をしていた。 「・・・ちとせちゃん、凄い・・・ わたし、ここで演技するの? 怖い・・・」と麦が圧倒される。  公演が終わって、たかしが野乃たちの所にやって来た。 猫の野乃を見たたかしが、「野乃さん。。。 それは、それで、萌える」としみじみ呟くと、[;´Д`]<「ねこパーンチ!」と野乃部長の鉄拳が飛んできた。  そして、いよいよ研究会の公演の時間が近づいてきた。 
控え室に入り、客入りの状況を見ている。 麦のポスターのおかげで、それなりに人が入ってきているらしい。 しかし、麦だけが一人物静かに座っている。 声をかけても反応しない麦に甲斐が近づくと、「麻井! 座ったまま、気絶してる!!」  理咲が優しく頬をパンパンしながら「麦ちゃーん。 起きなさーい。」と話しかけると、麦の意識が戻る。 「ごめんなさい。 私、やっぱり、自信がなくって。。。」と弱音を言う。 そんな麦に理咲が言う。「じゃ、逃げる? でも、今、逃げたら、この半年間がなんだったの?ってなっちゃうよね。 そしたら、辛い思いでだけじゃなくって、楽しかった思い出さえも、思い出したくない思い出になっちゃうんだよ。」 そして、野乃も「麻井さん、知ってる? 精一杯やったという事実さえあれば、辛かった思いでも全て楽しかった思い出に変わるのよ・・・」
その言葉に、この半年間のいろいろなことを思い出す麦。 「わたし、この半年間を失いたくはない。 こんなに頑張ったこと、今までなかったもん。」 その言葉に頷く、野乃と理咲。 「大丈夫だって。 麻井は、一人じゃないだろ。」と甲斐。  「舞台には、一緒に頑張ったみんながいる。」とたかし。 「いざとなったら、この理咲先輩がちゃんとフォローしてあげる。」と麦の手を取る。 そして、みんなが麦の回りに集まり、手を乗せる。 「わたし、頑張ります」とちょっと元気になってきた麦。  そこへ、演劇部の美麗がやって来た。「相変わらず、おめでたい人たちねぇ。。。」 美麗に「何しに来たの?」と野乃が聞く。 「プレッシャーをかけに。」と美麗。 相変わらずの野乃と美麗の関係をなだめつつ、たかしがこの公演で最も重要なことについて話し出す。  「もし、今日の本番中、野乃さんの声が出なくなったら、どうするか・・・ 念のため、ちゃんと話といたほうが良いと思うんだ。」 たかしの意見は、舞台は残りのメンバーに任せて、野乃は舞台を降りることだったが、「いや・・・」と野乃が答える。  「あ、あの・・・ アドリブでしたっけ? なんとかフォローを入れながら出来ないのでしょうか? 先輩はこの日の為に頑張って来たわけですし・・・」と麦が頑張る。 それに同調する甲斐。 その二人の意見と野乃の思いを尊重し、たかしも納得する。  そんなやりとりを見ていた美麗は、黙って控え室を出ていった。 それに気づいた野乃は、閉まりかけるドアを開け「ありがとう」と声をかけた。 その言葉に驚く美麗。

講堂に、演劇部のメンバーも集まりだした。 客席の一番後ろに、心配そうに佳代が立っていた。 佳代に声をかける美麗。 「もし・・・ 麦が失敗して、演劇研究会が潰れちゃったりでもしたら・・・ あの子、落ち込んで、ますます自信を無くしちゃうかも・・・」と佳代。 「信じなさい。 私たちに出来ることは、信じて見守ることだけなんだから。。。」
そして、ブザーが鳴り、幕が開いた。。。

舞台中央に麦がスポットライトを浴びて立っている。 ”・・・っいつも、、、いっつも、おもってました・・・” 固く強ばった麦の声に焦る佳代とちとせ。 ”なぜ、、わたしは、、、わらえないの。 こんな人生、、、生きていても、、、なんの意味もない、じゃない”  震える手を握りしめ、必死に言葉を発しようとする麦。  麦は、自分の手首を切るような演技をしてその場に倒れ込む。  場面が変わり、意識を戻した舞台上の麦。 ”わたし、、、生きている・・・” すると、自分の近くにだれかが居ることに気づく。 ”大丈夫よ。 あやしい人じゃない。”と麦の手を取りながら、隣に座って、「一人じゃないのよ」と麦に語りかける。  そして、野乃やたかしも舞台上に出てきた。 みんなの顔を見れて、麦の表情もおだやかになってくる。 ”私たち、幸せを呼ぶ、ただのキュートな妖精さんだよ!”  
なんとか話が動き出した、その時、続く野乃からセリフが出てこない。 そして野乃が突然歩き出した。 <台本と違う! これって、まさか> 麦に歩み寄った野乃は、麦の頬を叩く。 <合図!> それが、声が出なくなった時の合図だった。  麦は自分で言い出した事なのに、全くアドリブが出来ないことに気づく。 完全に舞台上で固まる。 ”あーあ。 怒らせちゃった。 いつまでも、そんな後ろ向きな態度を取ってるからだよ。 こうなったら、誰とも口を利かなくなるんだから!”と理咲がアドリブでフォローする。  麦は全くセリフ飛んでしまって、涙を流しながら立ちつくしている。 ”大丈夫よ。 わたしが生きる喜びを教えてあげるから”と理咲が麦の肩にてを当てる。 <頭が、真っ白・・・ 何も思い出せない・・・>

わたしの声が出なくなるとき・・・ なんでそれが、今なんだろう・・・ この瞬間が、あと1時間でも遅かったなら、きっと、神に感謝したわ。 或いは、もっと早かったなら、こんなことは諦めていたに違いない。
野乃は自分の喉を抑えながら、自分の回りの人たちの事を思い出していた。 
西田理咲。 いつも明るくて、よく私を怒ってくれた・・・ 
桂木たかし。 いつも影でフォローしてくれた・・・
西田甲斐。 文句を言いながらも、人の気持ちが分かる優しい子・・・
そして・・・麻井麦。 いつも人の目を気にして、自分を出すのが苦手で、緊張したら声まででなくなって、とても役者には向かない子・・・でも、凄く良い声を持った素直な子。 演劇で変われた私と勝手に重ねて、無茶ばかりをしてきた。 きっと、ものすごく大変だったと思う。 それでも、一生懸命頑張って、今、舞台に立ってくれている。  そんな全員が、私に舞台を降りなくて良いと言ってくれた。 ・・・美麗、やっぱり私は演劇が好き・・・ たとえ対立しても、あなたが希望を与えてくれた演劇が好き・・・ あなたと出会ったこの学校で、ずっと続けたかった


「野乃・・・」舞台上の野乃の姿に、美麗が耐えきれなくなり、席を立った。 その時、舞台から、掠れた声が聞こえてきた。 ”やっ・・て・・・みせ・・・て・・よ く・・ら・・・い 言い・・な・・さい”野乃が麦に出来る精一杯のフォロー。 
  「酷い声・・・ バカじゃないの・・・」と涙を流す美麗。
<先輩。。。 無理して、私の為に。 先輩を支えられるのは、私たち。 そして、今は、、、私だけ!> そして麦が始まった。

”わかったわよ! そんなに言うのなら、やって見せてよ! わたしだって、こんな性格、嫌だもの! そんな事が出来るのなら、こっちからお願いしてやるわよ! さぁ!あなたたちの力で、私を変えて見せて!”


ひとひら #09
<この日を忘れない!>
野乃。 これはあなたが起こした奇跡なのよ。 たくさんの努力とたくさんの支えの元にこの場所にいる。。。

幕が下り、拍手が起こる。 「カー・・テン・・コー・・ル」と野乃が言う。 舞台に戻り、再びスポットライトがあたる。  自分たちに向けられている拍手に圧倒される麦。 
しかし、演劇対決はまだこれから。 演劇部vs演劇研究会。 投票結果がカウントされていく。 先に投票箱が空になったのは、研究会。  その場に泣き崩れる麦。 「終わったんだ。 何もかも・・・」

研究室。 メンバーが集まる。 「これで、ここに集まるのも最後なんだな・・・」と甲斐が呟く。 表では、文化祭の後かたづけが始まった。  「野乃さん。 平気?」とたかしが自分の喉を指さしながら聞く。 「あり・・がとう。 かえった・・ら、今日、行く」と掠れた声で答える野乃。  「俺はさぁ、ここにて良かったと思うよ。 ここに入るきっかけは、ほんの成り行きだった。。。」とたかしが、演劇研究会の発足秘話について話し始める。 
演劇部に退部届けを出す決意をした野乃が泣いている。 それに気づかずにたたかしが、話しかけた。 振り返った野乃の目の涙を見て驚くたかし。  ”それなら自分で部活を作っちゃえば?”の一言がきっかけだった。 そしてその二日後には実行されていた。 
理咲も、訳あって演劇部を辞めてきた。 野乃の退部のことで美麗とケンカ別れをしたらしい。
「わ・・・わたしは・・・」と麦がこの半年間のことについて話し始めた。 「わたしは、悔しいかな・・・ もっと、最初から真面目に練習やっていれば、結果も変わっていたかもしれない。 ・・・ごめんなさい。 みんな一生懸命練習したのに、みんなの足、ひっぱちゃった・・・」と涙を流す麦。  そんな麦を見て、理咲が近寄る。 麦のほっぺをビヨンと引っ張ると、「これが終わったら、解散させるつもりだったんだよ。 私たち、卒業しちゃうでしょ? それなのに、あなた達に押しつけちゃうのもどうかと思って・・・ ただ、勝って解散したほうが格好いいかなって。 あはは」と理咲が笑う。  「まぁ、しっかり負けた訳だし」とたかしも言う。 「・・わたしは、麦、が、来てくれた、から、こそ、、、よかった、と思ってる。」と野乃。 「先輩・・・ 私も、ここに入れて良かったです。」と声を詰まらせる麦。 研究室のドアの向こうでは、 零れ会話を佳代が聞いていた。 「よかったね。 すてきな仲間が出来て・・・」と涙を拭う。 
しばらくして、研究室の外に出てくるメンバー。 ドアの上に貼られた『演劇研究会』のラベルを剥がす時がきた。 「じゃ、剥がすから」とたかしが手を伸ばす。 剥がれた後には、回りとは少し色の違う壁が見えた。  「野乃さん。」とラベルを野乃に帰すたかし。 「これで、研究会を・・・ 解散、と、します・・・ おつかれ、さま、でした・・・」 夕焼けに染まる研究室前の廊下から、一人一人消えていく。 そして、誰もいなくなった。

それは、一片の夢でした。 けど、私は、この日を決して忘れない・・・ さようなら。 演劇研究会。


ひとひら #10
<ずっと・・・一緒・・・>
文化祭も終わり、演劇研究会は廃部になった。 そして、冬になり、ようやく普通の高校生活を送りはじめた。  クリスマスが近くなって、ちとせが先輩達と一緒にパーティーをしたいと言い出した。 しかし、ちとせの目的は桂木先輩。  そしてちとせは、たかしが卒業するまでに告白する気でいる。 

「クリスマスパーティーは、分かったけど・・・ なんで会場が、演劇部なの!」とご立腹な美麗前部長。 「ま、辛いことは忘れて、メリークリスマース!」とちとせが張り切る。  演劇部の将来に不安を感じ項垂れる美麗を慰める野乃。 佳代はデジカメで写真を撮りまくる。 外は有希が降っている。 みんなで外に出て、雪合戦。  ちとせは、「桂木先輩。 わたしの気持ちを受け取ってください」と雪玉を投げると、たかしの先にいた野乃に命中。 「冷たい・・・」 

「麦は、もう演劇やらないの?」と佳代が聞く。 しかし、麦はもうやらないと言う。 演劇は楽しかったけど、自分には向いてない。 それを聞いて佳代は、「勿体ないなぁ。 演劇やって、変わったよ。」と言う。  「そうかなぁ?」と麦。 「そう。 だから、私なんか居なくても、麦はしっかりやっていける!」 「何それ・・ 無理無理絶対無理!」と慌てる麦。 その時、麦に雪玉の流れ弾が当たって悶絶。 
雪合戦のあとは、雪だるまを作る。 その雪だるまの前で、佳代が一年間撮り溜めた写真を見せる。 入学、演劇練習・・・ 「佳代ちゃんの撮る写真って、なんかどれも温かい感じがするよね。」と麦。 「え? ほんと?」と喜ぶ佳代。
麦は、「2年生になって例えクラスが別れても・・・」と来年の事を話そうとすると、佳代が  「・・・ならない・・・ 2年生。」と言う。 「なかなか言い出せなかったんだけど、写真の勉強するために、留学することに決めたんだ・・・ ごめんね・・・」

年が明けて、甲斐とちとせは麦を呼び出した。 気分を変えたかった麦は髪を卸してきた。 神社で手を合わせ、おみくじを引く。 甲斐が大凶。 「大丈夫だよ。 木に結べば難を逃れるって・・・」と麦が励ます。  ”木に結べば難を逃れる・・・” それは以前、大凶を引いた麦に佳代がかけてくれた言葉だった。
三人は甘酒を飲みながら、冬休みどうしているかを話し始めた。 甲斐と麦のやる気のなさっぷりに、ちとせが怒る。 「もう一回演劇やろうよ、演劇部で!」と二人を誘う。  しかし、はっきりを答えない甲斐は、ちとせに跳び蹴りを喰らう。 麦は、「たぶん、やらない・・・」と答えた。 「演劇やりたくないの?」とちとせが聞く。 首を横に振る麦。  「けっきょく、入学したときに逆戻りだよね・・・ 何がやりたいのか分からなくなっちゃった・・・」と落ち込む麦。 「麦だって、何かお願いしたでしょ? それが叶うように、頑張ってみようよ!」と元気付けようとするちとせ。  「してないもん・・・ 何のお願いもしなかった。 お願いしちゃいけないことしか思い浮かばなかった・・・ わたしね、中学入ったときから、ずっと佳代ちゃんと一緒だったの・・・ 私って、こんな性格でしょ。 だから一杯迷惑かけちゃって・・・  だから佳代ちゃんが困った時は精一杯助けてあげられるようになりたいって思ってたの・・・」  しかし、佳代は麦の演劇を見て、自分の留学を決意した。  「私。 何も言えなかった。 佳代ちゃんが居なくなるのが嫌で、”がんばってね”も言えなかった。 それで、何が友達なんだろうなって・・・」と。 そう言うと麦は、「ごめんね」と言い残して帰ってしまった。 
帰ろうと早足で歩いていると、野乃に出会う。 麦は、野乃に佳代のことを話した。 
「佳代ちゃんは凄いと思います。 一歩ずつ、ちゃんと自分の夢に近づいている。 なのに私は、ずっと同じ場所に立っている・・・  佳代ちゃんは私が演劇をやって前向きになったって言ってくれたんですけど、主役を演じたって結局わたし何にも・・・」と俯く麦。
「あなたは、演じただけなの、ひとひらを・・・」 ”ひとひら。 それは、ある女子高生の物語。 人生の全てが上手くいかず、自殺未遂をしていしまう。  その少女の前に三人のおかしな妖精が現れた。 少女を振り回す妖精立ち。 それを疎ましく思う少女。 しかし、三人の妖精達は、諦めていた恋を実らせてくれる。  彼女が幸せだと感じたときに、妖精達は姿を消す。。。 居なくなって初めて気づく、いつも側にいてくれた友達の大切さ、愛おしさ・・・ そして感謝。”
「言えません! ありがとう なんて。。。 言ってしまったら、佳代ちゃんは・・・ だめ! 佳代ちゃんはずっと私といっしょ・・・」と言う麦。
「終わらないものなんて無いわ。 終わらない舞台が無いのと同じように。 みんなはいつか出ていくのよ、この橋を渡って・・・」
「でも、出来ません! 佳代ちゃんを笑って見送るなんて・・・」
「じゃ、相変わらず何も出来ない麻井麦でいると良いわ。 舞台を上がった人を止めることは出来ない。 けど、応援する事は出来る。」
「応援・・・」
「別の道を行くことになっても、どんなに時間が経っても、会えば必ず笑いあえる。。。 すぐに思い出せる。 それが友達・・・」
「そんなの! そんなの! 分かるわけないです! 先輩に、私と佳代ちゃんのことなんて!」と麦が感情を露わにする。 
そんな麦を抱き寄せる野乃。 「・・・分かるわ・・・」と言うと、麦に自分のマフラーを巻くと、「風邪、引かないようにね・・・」と言うと、麦に背を向けて歩き出した。  麦は、その振り返ることなく遠ざかっていく野乃の背中に、初めて、自分から離れようとしている人間が佳代だけではないことに気づいてしまった。


ひとひら #11
<笑顔が・・・好き!>
佳代ちゃんの笑顔が大好きです・・・ 3学期が始まり、佳代のことで気持ちが沈んだままの麦。  そんな麦に、ちとせが話を聞く。 「でもさ・・・佳代ちゃんもうすぐ行っちゃうんだよ? 仲直りしようよ・・・」と麦を励まそうとするが、「絶対、無理・・・ むり」と涙ぐむ麦。 ”これを4年間も操ってきたのか・・・佳代ちゃん、あんたすごいわ”と佳代の根性に感心するちとせ。

麦の説得に失敗したちとせは、甲斐に協力を仰ぐ。 その甲斐は演劇を辞めてから美術部に入っていた。 キャンバスに向かっている甲斐をみて、ちとせが「あんたどんだけ美術が好きなんじゃ! この美術ばかー!」と一喝を入れる。 
美術部の備品室の前にいた美麗に声をかけてみる麦。 麦が落ち込んでいることを知っていた美麗は、「今は涙で前が見えないでしょうけど・・・ 去っていく人は泣くこともできない。 背中しか見せない・・・」と言う。  その言葉に、ハッとする麦。
初めて佳代と出会ったときのことを思い出していた。 中学時代、教室でずっと窓の外を見ていた麦に声をかける佳代。 「桜、好きなの?」 なんて返せばいいのか分からず、おどおどする麦。  「もしかして、話しかけられるの、嫌い?」 首を横に振る麦。 「麻井麦さん、でしょ? かわいい名前だったからすぐ覚えちゃった。」 それが、佳代と佳代の出会いだった。 
佳代が撮り続けてきたアルバムを一人講堂の暗がりでみている麦。 佳代の自分が写っている写真を見たとき、麦の目から涙が溢れてきた。  「佳代ちゃんは悩んだりした・・・? 悩んだり、しないよね・・・」と呟く麦。 しかし、次の瞬間、自分が全く佳代の気持ちを考えてきていなかったことに気づいてしまった。 



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